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第182話 夢

 夢の中にいるような朧ろげな感覚、意識はぼんやりとしている。眼前に広がるは闇ばかり。俺は、どうしたんだったか……


(―――)


 ……何だ?


(―――)


 誰かが、何かを言った気がする。


(―――ぜ……)


 声は限りなく遠くから、しかし耳元で発せられているような…… くそ、意識がハッキリしない。


(―――なぜ…… ―――)


 一部しか会話が聞き取れない。それにしてもこの声、どこかで聞いたことがある、か?


(―――もう、後悔はしたくない。私は―――)


 暗闇の中に、うっすらと人影が形作られていく。君は、一体―――


『あなた様!』

『ケルヴィン!』


 頭に直接叩き込まれた唐突な大声。闇が光に掻き消され、俺の意識は瞬く間に覚醒させていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ん、あ……」


 寝起きに発せられる、間抜けな第一声。頭がまだ少しぼんやりしているが、体は温かい。どうやら俺は寝間着姿でベッドに横になっているようだ。不鮮明な俺の視界にまず入ったのは見覚えのない天井、そして―――


「あなた様、やっと意識が……」

「もう! 何日も眠ったままで心配したのよ!」


 視界の外枠、その左右から安堵したようなメルフィーナと涙交じりに怒った表情のセラが天井を遮って入ってくる。おいおい、俺はまだ寝起きなんだぞ。何でそんな顔してるんだよ? ……ん、寝起き? 何日も寝たまま?


「おはよう、って感じではないよな。俺、どうしたんだ?」


 メルフィーナの頭を撫で、セラの瞳に溜まった涙を指で拭う。


「ん、ありがと…… ええと、覚えてないの? 魔王を倒した後、私がお説教している最中にバッタリ倒れたのよ?」

「……あー」


 言われて思い出してきた。魔王と戦った後、ずっと体がだるかったんだ。そうか、俺は倒れたのか。


「今日まで三日間、ずっとです。特に先ほどはかなり魘されていたようでしたので、思わずセラと一緒に叫んでしまいましたよ」

「それでか。夢の中で二人の声が聞こえた気がしたよ」


 結局、あの夢は何だったんだろうか。いや、夢に意味を求めるのもどうかと思うけど。でもなぁ、何か引っ掛かるんだよ。考えても仕方のないことではあるんだが。


「それでここはトライセン城の客室の一室。ああ、大丈夫よ。今は各国の兵が警備しているし、何よりも私とメルがいるんですもの! 世界一安全な部屋と言っても過言ではないわ! 思う存分くつろいでいいわよ!」


 う、うん。そりゃ世界最高峰のセキュリティーだわ。


「全く、私との愛を確かめ合った記念すべき日に倒れてしまうとは。あなた様も随分と女泣かせなのですね」

「またお前は誤解を生むような言い方をするのな……」

「誤解も何も事実ではないですか。私たちの愛で魔王は消え去ったのですから!」


 メルフィーナの頬はちょっと赤い。


「……まあ、うん。確かにな」


 確かに魔王はメルフィーナの照れ隠しによるよく分からぬ力で滅せられた。あれが愛の力によるものだと言うのなら、そうなのだろう。ああ、乙女の力は偉大なり。俺はかなり乱暴な理論で無理矢理納得することにした。


 メルフィーナの勘違いによるプロポーズは俺が全く意図せぬタイミングで発生したものだ。誰だってあの台詞がプロポーズになるとは思わないだろ。 ……ギリギリ聞こえなくもないか? うーむ。どちらにせよ、この幸せそうな神様の顔を見てしまっては後戻りすることはできない。する気もない。このような形になってしまったのは不本意ではあるが、俺だってメルフィーナに好意を抱いていたんだ。俺の私室で再会してから、記憶があれば転生する以前から一目惚れしていたんだったか。転生する前の俺もなかなかに大胆であるが、節操のなさでは俺も人のことを言えない。って結局パーティの女子全員が好きだったんじゃないか、俺! この獣、煩悩の塊! でもグッジョブ!


「ふふ、夜な夜なあなた様の寝床に忍び込んだ甲斐がありました」


 いや、それが逆に俺を踏み留まらせてくれたんだが。普通、好きな女の子が自分のベッドに入り込んできたら間違いのひとつでも起きそうなものだが、メルフィーナに限ってそれはなかった。だってさ、入ってきた瞬間に熟睡モードになってるし、例の寝相の悪さで拳やら蹴りやらが飛んでくるんだよ? メルフィーナのステータスを考えてみてくれ。ドキドキな夜が地獄の夜の猛特訓に早代わりだ。その度に神経を研ぎ澄ませていた俺は、エフィルやセラのときのように情緒的な感情にはとてもではないがなれなかったんだ。


「ハア、私はもう許したけど、メルとのことは後でエフィルにも自分の口から伝えなさいよ? あの子のことだからもう答えは分かってるけど、礼儀としてね」

「分かってる。ちゃんと俺から話すよ。二人にも迷惑をかけたな。ずっと看病してくれていたんだろ?」


 ベッド横の台には水の入った桶とタオルが置いてある。


「いいのよ! 私だってケルヴィンに看病してもらったんだし! これでその、お、お揃いよ!」


 おあいこの間違いだろ。でも可愛いから許しちゃう。


「エフィルのように上手くはできませんでしたが、私たちなりに頑張らせて頂きました」

「そっか。セラ、メル、助かったよ。ありがとう」


 改めて二人の頭を撫でてやる。む、しかし俺の世話焼きたがりナンバー1のエフィルがこの場にいないのは珍しいな。いつもなら絶対に譲らないはずなのだが。


「そういえばエフィルはどうしたんだ?」

「エフィルですか? 実はあなた様が倒れられたその後に、エフィルも熱を出してしまいまして……」

「エ、エフィルもか!?」

「エフィルだけじゃないわ。リオンにジェラールもよ。ジェラールだけは熱じゃなくて「何か出そうじゃ……」とか呻いていただけだけど」


 ガタッ!


 何と言うことだ…… 愛しのエフィルとリオンが熱で苦しんでいるだと!? リオンに至っては剛健スキルを会得しているのに!? これは寝ている場合じゃない! 今すぐ最上級クラスの白魔法で治療しなければ! それで治らなければ新たな魔法を―――!


「あなた様、お気持ちは分かりますが落ち着いてください。既にエフィル達の熱は下がっています。大事をとってあなた様の看病は私たちがやっていたのです」

「寝たきりだったのはケルヴィンが最後。だから安心して寝てなさい!」

「そ、そうか。悪い……」


 慌てて立ち上がった俺はセラに押さえ付けられ、強制的に寝かされる。早合点してしまった。でも二人とも無事か、良かった……


「あなた様、ジェラールのことも少しは思い出してあげてください」

「そうよ! ジェラールだって頑張って進化したんだから!」

「心を読むなって…… 進化?」


 ……病気じゃなくて?


「進化です」

「進化ね」

「……誰が?」

「エフィル、リオン、ジェラール。それに―――」

「ケルヴィンね!」


 固まる俺。少しして再起動し、自分の体を見渡すが異常は見当たらない。変わらぬ俺の手、腕、胸……

 よし、そこも大丈夫だな。ハッハッハ、二人とも何を言っているんだ。何時もと変わらぬ俺の体じゃないか。ほら、鑑定眼でも―――



=====================================

ケルヴィン 23歳 男 魔人 召喚士

レベル:120

称号 :死神

HP :1940/1940

MP :18000/18000(+12000)

筋力 :741(+160)

耐久 :673(+160)

敏捷 :1380

魔力 :2340(+160)

幸運 :1819

スキル:魔力超過(固有スキル)

    並列思考(固有スキル)

    剣術(B級)

    鎌術(S級)

    召喚術(S級) 空き:2

    緑魔法(S級)

    白魔法(S級)

    鑑定眼(S級)

    飛行(B級)

    気配察知(A級)

    危険察知(A級)

    隠蔽(S級)

    胆力(B級)

    軍団指揮(A級)

    鍛冶(S級)

    精力(S級)

    剛力(B級)

    鉄壁(B級)

    強魔(B級)

    経験値倍化

    成長率倍化

    スキルポイント倍化

    経験値共有化


補助効果:転生神の加護

     隠蔽(S級)

=====================================



 ―――パーズにいるクレアさん、そしてウルドさん、お元気ですか? ひとつ、ご報告があります。俺、目覚めたら人間やめてました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第6章始まりましたね。こういうのって普通、強さのインフレが起きて、またかよ、って感じになるんですが、そうならないい作者の力量がすごいです。 [気になる点] 面白すぎて、仕事に支障をきたして…
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