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第180話 結末

 ―――トライセン城・頂上


「―――!(コノッ、猪口才ナ!)」


 魔王の全身から突出する無数の槍、槍――― 呪いが込められた武具だと思われる漆黒のそれらは何の前振りもなく放たれた。だが、メルフィーナ達には掠りもしない。それもその筈だ、それはクライヴが一度セラに見せた手であるのだから。躱した上でリオンが電撃を放つと、槍は塵のように消えてしまった。


 魔王ゼルは王の命を封じられ、自力でセラ、リオン、そしてメルフィーナと対敵しなければならなくなった。軽い傷口であれば直ぐ様に回復し塞がる。しかしアレックスに気を取られていた時に受けたダメージが未だ色濃く残っている為、どうしても対応が後手に回ってしまっていた。


『本当にかったい! アクラマは兎も角、リーサルじゃ急所にしかダメージが通らないよ! 霹靂の轟剣(ジェネレイトエッジ)を使ったら雷撃で焦がす判定になっちゃってリーサルの効果が出ないし……』


 リオンは空中にて天歩を巧みに扱い、時に隠密で姿を消しながら魔王の撹乱を行っている。縦横無尽に飛び回るリオンは右手の劇剣リーサル、左手の黒剣アクラマですれ違いざまに魔王へ斬りかかるが、深手どころか薄皮一枚断ち切るのにも一苦労だ。アクラマによる斬撃は何とか通るのだが、リーサルでは歯が立たないのだ。


『口や目はリーサルでも大丈夫そうなんだけどなー』

『だからってまた一人突っ走っちゃ駄目よ! 危ないから!』

『そうです! 自称上級者を名乗るにはまだ早いです!』

『むー、身から出た錆だけに何も言えないです……』


 アレックスよりリーサルを受け継ぎ魔王の頭部へ攻撃を行った際に、リオンは幾度かリーサルで攻撃を放った。黒い表皮は全くの無傷であったが、唯一眼球への攻撃は効いていたのだ。これにより魔王から味覚を奪う。しかし今においては魔王もそれを認識しているだろう。再び針を通すような攻撃を仕掛けるのは危険だとセラとメルのお姉ちゃんズは判断する。子供扱いされるのを嫌がるリオンであるが、今回ばかりは反論できないようだ。


『素直にアクラマの2本で挑んでは?』

『でも、この剣でアレックスの仇を討ちたいんだ』

『強情ね…… メル、聖滅する星の光(ルミナリィバースト)の再装填はまだ?』

『私のMPは大丈夫なのですが、ルミナリィの冷却がもう少しかかります』


 メルフィーナの槍を見ると表面でジュウジュウと水分が気化していた。恐らくは青魔法で半ば強制的に冷やしているのだろう。


『そう。こいつ、体の再生が早過ぎるからね。殺るなら大技を一気に叩き込んで消滅させるしかないわ』

『それまでは我慢比べだね!』

『幸い、魔王の一部は私が支配しているしね』


 セラとメルは互いに連携しながら攻撃を続ける。一方で魔王は自身の体に違和感を感じていた。セラに腹部を強打されてから腰が思うように動かないのだ。愚剣を振るおうとすれば上半身と逆方向を向こうとし、意思とは裏腹に行動を逆行しようとする。攻撃と護り、その両方において著しく邪魔をする。


『腰は何をするにしても身体行動の中心となるの! それが妨げられれば、どんなに強い奴だって実力の半分も力を出せないわ!』

『なら僕も突っ込むね!』

『『それは駄目よ(です)』』

『だよね!』


 意思疎通を最大限に利用して3人の攻撃は嵐のように、だが繊細に放たれる。風脚(ソニックブーツ)の強化により敏捷は上昇したが、足元の氷女帝の荊(セルシウスブライア)は未だ健在。今の魔王の状態では全てを見切るのは不可能だ。


「―――…… ―――?(我ノ体ガ、奴ハ危険ダト訴エテイル…… コレハ、クライヴノ?)」


 だからこそ、魔王はセラの攻撃は優先的に避ける。そして―――


「―――?(クク、貴様、何ヲシタ?)」


 愚剣が捩れ、軌道を変えながらセラに押し寄せる。剣自体が折れ曲がって軌道修正している為、これではセラの支配は及ばない。リオンとメルフィーナが意識を逸らそうと奮起するも、愚剣は勢いを増し続ける。


「口パクじゃ何言ってるのか分からないわよ!」


 魔人紅闘諍(ブラッドスクリミッジ)を纏ったセラの拳と槍の如く伸縮した愚剣が真っ向から衝突。烈々たる衝撃波が屋上の全方向へと舞い散り、宙にいたリオンが僅かに後退、メルフィーナもその場で踏ん張っている。愚剣の伸び切った剣先が軋み、凄まじい重圧によりセラの足が氷原に埋まっていく。


「―――! ―――!(愚剣クライヴハ呪詛ノ集合体ダ! 迂闊ニ触レレバ何ノ呪イガ貴様ニ降リカカルカ分カランゾ!)」

「だから、聞こえないって…… 言ってるでしょうが!」


 セラの叫び、愚剣が剣先から上方へと打ち上げられる。愚剣にはセラの血が付着。魔王が操る愚剣とのせめぎ合いに、セラは打ち勝ったのだ。しかし、その時―――


 ―――キィン。


 『偽装の髪留め』で透過していた角、翼、尻尾――― 愚剣に触れてしまったからなのか、その効力が無効化されセラの悪魔たる部分が露呈されてしまう。


「―――! ―――!(ホウ、勇者ニ天使、ソノ次ハ悪魔デアッタカ! 死神メ、面白イ者達ヲ飼ッテイルナ!)」


『よくも―――』

『栄光の聖域(グローリーサンクチュアリ)』


「―――!?(グオッ!?)」


 魔王を中心に据え、屋上全体に白く輝く魔方陣が展開、魔王の胴体では浮遊する三段のリングが締め付けるように奴を拘束する。更には振り下ろされる二つの刃、俺の大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ)が飛ばした斬撃が愚剣を持つ右腕を斬り落とし、アレックスの魔剣カラドボルグが雷鳴を轟かせながら左腕を抉る。


『セラ、あまりカリカリするなよ。勝てる勝負も勝てなくなるぞ?』


 セラの頭に手を置き、呪いを解呪してやる。直ぐに偽装の髪留めは機能を取り戻し、セラの角などは見えなくなった。


『むー…… あの剣、剣先に付けた血だけじゃ制御するには時間がかかるわ。支配下に置くよりも場外に蹴飛ばした方がいいんじゃない? 何かキモいし』

『普通に勿体ないだろ。クロト』


 愚剣にはまだ魔王の右腕が張り付いていたが、邪魔なので衝撃(インパクト)で弾き飛ばし、螺旋超嵐壁(テンペストバリア)の中へ放り込む。愚剣はクロトの保管へ回収、後で清めて魔改造してやろう。そうすれば綺麗なクライヴが…… やっぱり止めようかな。さて、俺がアレックスを伴い復帰するまでの間、僅か数十秒の出来事。何と濃厚な時間だったろうか。


「―――。―――……(コレモマタ高位ノ封印カ。死神、貴様一体ドレホドノ魔力ヲ……)」


 って、おい。もう右腕が生え掛けてやがる。やはり一気に決めないと意味がないか、クソォ。


『ケルにい、序盤から強い魔法を使い続けてるけど、魔力は大丈夫なの?』

『大丈夫ですよ、リオン。私のとっておきを渡しましたので』

『とっておき?』


 そう、俺の悪食の篭手(スキルイーター)の左手にはメルフィーナより渡されたとっておきが封入されているのだ。そのスキルの名は、『大食い』! これで魔力も気にせず使い放題に! ……いや、長期戦を想定していたんだ。回復薬が不味いことは変わりないが、これなら瞬時に飲み干せるし。何気に素晴らしいスキルだよ。


「―――! ―――!(フハハ! ダガ、コノヨウナ軟弱ナ結界、直グニ脱シテヤロウゾ!)」


 何を言っているのかは知らないが、我の変身はあと2回残されているぞ! とかならいいのだが。栄光の聖域(グローリーサンクチュアリ)のリングは既に後ひとつとなっている。聖域の効果で全員を強化した状態で仕留めたいから、そろそろ動かないとな。


『メル、準備はいいか?』

『……いけます』

『よし、リオン。思いっきり向かっちゃっていいぞ』

『え、いいの! アレックスも一緒でいい!?』

『ああ、いいぞ。正面からかましてやれ』

『ケルヴィン(あなた様)!?』


 不安なのは分かるが、リオンもアレックスがやられた分をやり返したいだろうしな。


『大丈夫だ、俺が補助するから安心しろ。リオンとアレックスはこう、その後はセラ、これをこうしてくれ』


 配下ネットワークにマップを表示、矢印を示す。


『ああ、もう。分かった、分かったわよ。絶対に絶対よ!』

『へいへい。メルも頼んだぞ』

『あなた様はこんな状況でもマイペースなのですね。ですがリオンはしっかり護ってくださいね?』

『俺も相当なもんだが、お前らのシスコン振りも結構なもんだよな……』


 言われなくとも、不可能を可能にしてでもやりますとも。話は纏まった。それじゃあ、行こうか。


『行くよ、アレックス!』

『ガウッ(うんっ)』


 稲妻反応(ライトニングエンハンス)を靡かせ、リオンとアレックスが駆ける。


「―――。―――! ―――!(何カト思エバ、マタカ。無駄ダ、我ニハイカナル攻撃モ通ジヌワッ! 重風圧(エアプレッシャー)!)」


『させるかよ。重風圧(エアプレッシャー)・逆風』


 奴の緑魔法はC級だから、ここらが潮時か。魔王が唱えた重風圧(エアプレッシャー)は俺の全力にほぼ等しい威力を秘めているが、逆に言えば俺が頑張ればどうとでもなる。魔王が力を押しやる方向とは逆に重圧をかけて魔法をキャンセル。その間にもアレックスが先行してカラドボルグの電撃で魔王の肌を焼き斬り、その傷口をなぞるようにしてリオンがリーサルで更に掻っ捌いた。その回数は4回を超え、魔王は五感の全てを失ってしまった。


『ふんっ!』


 次に控えるは魔王の正面に移動したセラだ。腰を据えた、セラの重い拳。全力の打撃を連打、連打。魔王が装備する鎧は完全に破壊され、消失。これだけでも何度死ねるか分からない一撃の嵐がダイレクトに襲い掛かるのだ。最も、触覚を失った魔王は痛みを感じることもなかっただろうが。そして巨体である魔王を宙に浮かせ、胴を縛るリングを装着させたまま螺旋超嵐壁(テンペストバリア)に向けて吹き飛ばす。


(何モ見エン、何モ聞コエン! 魔力ノ流レハ…… 背後ニ巨大ナ魔力ノ壁、否、渦巻イテイルノカ? 我ニ近ヅイテ…… 竜巻カ! フハハ、成程ナ。周囲ヲ渦巻ク竜巻ニ我ヲ放リ込ミ、全テヲ切リ刻ム算段カ。ダガ、ソレデモマダ―――)


「それでもまだ、足りないだろうな。だから―――」

「―――私たちの出番です」


 魔王が螺旋超嵐壁(テンペストバリア)にまで到達したと同時に、メルフィーナが青き光の翼を広げ聖滅する星の光(ルミナリィバースト)をぶっ放し、俺が煌槍十字砲火(レディエンスクロスファイア)をMPの残高を無視して放ち続ける。本当であれば大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ)で斬りかかりたいが、螺旋超嵐壁(テンペストバリア)ごとぶった斬ってしまうからな。我慢我慢。ここで逃がしては元も子もないのだ。


「魔王、残念だったのはお前の能力ばかりが先行してしまって、お前自身が戦い慣れしていなかったこと、そして得たばかりの能力を十全に活かせなかったことだな。後、俺との直接バトルがあまりなかったこと…… これはいいか。まあ、来世ではそのあたり気をつけてくれ。ああ、聞こえてないのか」


 緑魔法に対しての理解が深ければ、無音風壁(サイレントウィスパー)を弾く方法も考え付いただろうに。荒ぶる竜巻は魔王の背面を削り続け、眼前からは魔王を消失させようと聖なる光が砲撃となってその身を破壊させていく。細胞が破壊と再生を繰り返し続けるも、その差は歴然であった。


(グオオオオ! 我ガ、我ガ滅ブノカ!? 痛ミハ感ジヌガ、コノ身ノ魔力ガ無クナル感覚ガ、我ニ危機ヲ知ラセテイル! ソンナコトハ、有リ得ンンンンンッ!)


 おお、再生速度を増して踏ん張ってる。これはマジで第三形態を期待していいかもしれん。


「あなた様、考えていることが顔に出ていますよ!」

「今くらいは神様だって許してくれるさ! それに良妻はそこも含めて夫を好いてくれるんだろう!? きっと明日は手作りの味噌汁だって作ってくれるさっ!」

「あ、あなた様ぁ!? こんなところでプロポーズですかぁ!?」


 いつも俺以上にマイペースなメルフィーナが顔を真赤にしている。あ、あれ? 何時ものメルフィーナのノリに合わせて受け答えたんだが…… 何か変に捉えられてないか?


「斬新な告白を期待しているとは言いましたが、このシチュは斬新過ぎますっ!」


 ああ、やっぱり勘違いしている! 味噌汁のくだりが拙かったか! そしてメルフィーナの翼の輝きは更に光を増し、なぜか聖滅する星の光(ルミナリィバースト)も威力が増大している。ルミナリィの駆動音も上がっている。


(我ハ、魔王…… コノ世ノ、全テニ破壊ヲ、齎ス者、ゾ……)


「でも、実は私も…… 好きでしたぁーーー!」


 魔王が、光の中へと消えていく。俺たちの初めての共同作業は魔王の撃滅であった。

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