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第176話 螺旋の光

 ―――トライセン城


 トライセン城左翼、竜騎兵団本部にて竜の咆哮が轟く。竜が舞う渓谷の上に建てられた支城にて戦うは、サバトが率いるガウンのパーティであった。サバトらはジェラール、ダンと共に正門を突破した後に別れ、竜騎兵団本部の方向へと歩を進めていた。


「成竜がそっちに行ったぞ! ゴマ、極力殺さず無力化しろよ!」

「分かってるわよ! 竜騎兵団本隊はこっちの仲間になったみたいだしね!」


 ゴマが向かって来た成竜の鉤爪による攻撃を、更には竜に騎乗する竜騎兵の刺突を掻い潜る。躱されたことを認識した竜騎兵の舌打ちは、顔面目掛けて放たれたゴマの飛び蹴りと一緒に彼方へとぶっ飛ばされてしまった。残されてしまった成竜が相棒である兵を一瞬気にかけるが、それも長くは続かない。飛び蹴りから流れるように竜の額に打ち込まれたゴマのかかと落としは成竜を失神させるには十分な威力を秘めていたのだ。


「ゴマ様、お見事!」

「私のことはいいからアッガスはグインの補助を。残党とは言え、亜竜や幼竜に混じって成竜が少しいるわ。グインひとりだと―――」

「無理ッス! アッガスの旦那、ヘルプ、ヘルプ!」

「少しくらいは男を見せんか……」


 成竜に追われ逃げ惑うグインに溜息をつきながらもアッガスが救援に向かう。竜騎兵団は残存兵力は僅かなもの。しかし手負いの獣、もとい竜は何とやら、最後まで油断はできない。


「おのれ亜人共め! 嘘ばかり並べやがって!」

「囲め囲め! 我らの底力を見せるときだ!」

「ったく、いくら説明しても話を聞きやしねぇし、面倒だな。まあ、あっちよりは遥かにマシだが……」


 サバトが東の空を向くと、そちらでは天を掴むような大巨人が2体の巨竜と戦っているのが見えた。とてもではないがサバトらが介入できるレベルの戦いではない。だが、渡り合えなければ彼の偉大なる父、獣王とは永遠に肩を並べることはできないのだ。いつかは通らなければならない道、されど険しく遠い道である。


「戦闘中に余所見しない! それに行き成りあんな大声で叫んだだけで安直に降る訳ないでしょうが。逆に警戒されてしまっただけよ」

「何でだ!? 俺はただアズグラッドは寝返ったと教えてやって――― って拳を固めるな殴るなら俺でなく敵にしろ!」

「サバト、あんたは実力よりも馬鹿みたいに一直線なところを何とかしなさい」

「これでもない頭で一生懸命にやってんだよ。それよりもやばそうなのが来たぜ」

「ハア、そうね……」


 サバトが指差す上空には他の竜達とは明らかに実力が異なるであろう白き竜がいた。竜達はもちろんのこと、周りの竜騎兵も何やら驚いているようだ。それが意味することは敵兵にとっても不測の事態であるのか、現状では不明。しかしA級冒険者であるサバトやゴマにはひと目でそれが分かってしまう。あれは自分たちより遥かに強い生物であると。


「へへっ、思ったよりも早く機会ってのは巡ってくるもんだな。ゴマぁ! あいつを倒せば俺らS級も夢じゃねぇだろ!?」

「調子に乗るんじゃ…… んん?」

「何だ何だいつになく弱気じゃねぇか、お前らしくねぇ! 行かないんだったら俺が先にンットゥイ!」


 駆け出そうとしたサバトがゴマの裏拳により支城の壁に叩き付けられる。


「お、お前…… 戦闘中にそれは、ねぇだろ……」

「静かにしなさい。どうやらここの戦いは終わったみたいよ」


 満身創痍のサバトが不服を申し立てるが、ゴマはそれがなんだと受け付ける様子はない。それどころかさっさと起きろと目で語っている。理不尽を感じながらも起き上がったサバトは空の竜へ視線を移し、暫くしてその意味を理解した。


「てめぇら、そこのガウンの奴らとの戦闘を中止しろ!」

「「「ア、アズグラッド将軍!?」」」


 白銀竜から上がる叫び声、戦場に赴き行方不明となっていたアズグラッドの突然の帰還と命令に兵達は混乱気味だ。


「しょ、将軍、よくぞご無事で!」

「しかし、こいつらは侵略者で……」

「うるせぇ! 説明する時間がねぇんだ! 黙って俺に付いて来いや!」


(((え、ええー……)))


 そしてサバト以上に横暴な説明であった。


「文句は後で受け付ける! 返事は!?」

「「「は、ハッ! 了解であります!」」」

「おう!」


 力技で無理矢理に部下を纏め上げたアズグラッド。彼を乗せる白き竜、ロザリアは何とも言えない表情だ。


「アズグラッド、もう少し理性的に説明できませんか?」

「それはシュトラの本分だ。俺の性に合わねぇよ。俺は俺のやり方を通す」

「ハア、貴方は小さい頃から変わりませんね…… さあ、彼らの元へ行きますよ」


 ロザリアはクンッと急降下してサバトらがいる場所へと舞い降りる。


「よう、お前らがケルヴィンが言っていた冒険者だな? って、お前らサバトにゴマじゃねぇか。 ……サバトはやけにボロボロだな」

「これはこの暴力女にトゥラッティ!」

「気にしないで頂いて結構です。むしろ無視してください。それよりも援軍とは貴方のことだったのですね、アズグラッド王子。自国の城を攻め入るというのも妙なことですが……」

「あー、こっちにも色々あってな。借りは返さねぇと気が済まない奴らが俺の部下には多いんだ。まあ、俺もそれに乗っかっている口なんだけどよ」

「相変わらずの戦好きのようですね」

「まあな。部下と竜を殺さないでくれたことには礼を言うぜ。でもよ、悪いんだが今は時間がねぇんだ。言い争いは後に―――」


 不意に空に青白い光が広がる。アズグラッドにロザリア、ゴマ、そして再び復活したサバトが光の出所であるトライセン本城の最上階に目を向ける。ケルヴィンの昇格式を見ていたサバト一行はこの光景に見覚えがあり、直ぐにその光の見当がついた。


「あれ、パーズの模擬試合で見た巫女さんの結界じゃねぇか?」

「確かにデラミスの巫女の秘術ね。でも―――」

「ああ、それを上塗りするような、あの黒々しい気配は何だ? 何でアンタからこんな力を感じるんだよ、親父……!」


 コレットが発する神聖なる結界の更に上、本城の頂上より邪悪なる力が膨れ上がっていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ―――トライセン城・頂上


 コレットの助力によりシュトラを振り切ったケルヴィンとリオンが行き着いた先、そこは本城最上階の先端である円形状の屋上であった。シュトラは式の準備などと言っていたが、それらしい華やかな装飾はされておらず、あるのは無機質な床と城下町を見渡せるよう設置された荘厳なる王座。そこに座すはトライセン国王、ゼル・トライセンであった。


「良い威圧感じゃないか、王様」

「……『死神』か」


 王座はこの階層への入り口から背を向ける形で置かれている。必然、ゼルは入り口側にいるケルヴィンを背にする訳なのだが、王座の肘掛に腕を立てて頬に手を添える体勢を崩す気配はない。


「一応聞いておくけど、降伏する気はあるか? 城内の兵はほぼ制圧され、ご自慢の軍団も機能を失っている。残るは王様だけだ」

「降伏? クックック、面白いことを聞くものだ。そこそこに楽しめはしたが、もとより駒の力など当てにしておらんよ。我さえいれば…… いや、シュトラは別であったな。力に目覚めた我の血をひく、真なる一族を築く為の母体として役に立ってもらわねば、クク」


 ゼルが笑いながら立ち上がり、ケルヴィンとリオンへ振り向く。その瞳は黒く染まっており、人のものではなかった。


「貴様を、次はデラミスの者らを殺し、親愛なるシュトラには新たなる我が子を産んでもらおう。さあ死神よ、今日から恐怖が世界を支配するぞ。魔を帯びし我が軍勢が破壊し、蹂躙し、破滅へ導くのだ!」

「ああ、そういうの別にいいから」


 ―――ザスッ!


「むっ?」


 ゼルの胸元より飛び出る蒼き槍。螺旋を描くランス状のそれはメルフィーナの持つ聖槍ルミナリィであった。


「邪を払いなさい、ルミナリィ」


 メルフィーナの召喚により発生する魔法陣を隠蔽し、背後から奇襲。キィーンと槍の螺旋が回転し出し、放たれた蒼き輝きはやがてゼルを覆い尽くしていく。聖槍ルミナリィは対象の悪意を一掃する力を持ち、この力を発揮しているときは槍自体の殺傷力がなくなってしまうのだが、悪人を善人へと転じさせてしまう程の、ある意味で人格を変貌させてしまう影響力を備える神の槍なのだ。強力が故に、そして神自身が余計な影響を世界に与えないようにと扱うに際しての制約も多い。 ―――筈なのだが、メルフィーナは盛大にぶっ放していた。


「この魔力…… 貴様、何者だっ!」

「あら、すっかりお目覚めのようですね」


 槍を抜きメルフィーナが背後に跳ぶと、それに伴ってゼルを囲う光が弱まっていく。


『あなた様、申し訳ありません。どうやら彼は手遅れのようです。魔王として覚醒してしまっています』

『いや、これでダン将軍への面目は立つ。奴が魔王で確定だ』

『ええ、神として魔王ゼルと認定致します』


 ケルヴィンはゼルのステータスに刻まれる『天魔波旬』の文字に頬を綻ばせた。

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