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第172話 ブルーレイジ

 ―――トライセン城


 超巨大ゴーレムに向かって放たれる無数の光。夜空の全ての星々が流星となって降り注ぐが如く、ガトリング砲より魔力の弾丸が放射され続ける。一発一発は装甲を僅かに焦がす程度、されどこの数となれば決して無視できるダメージではない。蒼き重厚な装甲を一枚一枚、確実に削いでいる。更にボガが巨大ゴーレムの脚部を土中に沈めることにより、大幅に動きを封じることにも成功していた。


(実物大の人型ゴーレムか。個々の性能もなかなかに優秀。しかしこれだけの数を、一体どこから……?)


 姿を現すまでゴーレムの集団を全く察知することができなかったジルドラの疑問はもっともである。ケルヴィンのゴーレム50機はクロトの保管に一度戻り、潜伏しながら移動するクロトの最小化分身体から再度出撃していた。これにより至近距離まで近づいてもジルドラに気付かれることなく、不意を突く形で奇襲を仕掛けることができたのだ。


「……サンプルとして何体か持ち帰りたいものだ。このブルーレイジを相手に原型を留めていれば、な」


 ジェラールとゴルディアーナが目標に駆け寄る最中、営造物や土砂、あらゆるものを巻き込みながらブルーレイジの右腕が薙ぎ払われる。地を這う壁は付近にいた砲撃中の騎士ゴーレム何体かを粉砕し、尚も苛烈さは衰えない。この時点で混成魔獣団本部は悲惨な有様となっていた。


『ボガっ!』


 ジェラールの念話に呼応し、ブルーレイジが埋まる後方の地面よりその巨体を跳び出させる。超重量級とは思えぬ程に高く舞い上がったボガは、そのままブルーレイジの左肩へダイブ。途轍もない衝撃を受けてブルーレイジの重心は左に傾き、それに伴って地表を蹂躙していた右腕が宙に浮かぶ。


「ぐっ!」

「ゴアアァァーーー!」


 背後へと組み付いたボガはブルーレイジの頭部をその強靭な顎で噛み砕かんとする。ブルーレイジの頭部に装着されたモノアイがボガを睨みつけ、ギリギリと装甲が悲鳴を上げてはいるものの、完全に破壊するにはあと一歩パワーが不足している。


『ボガ! そのまま抑えとけやっ!』


 今度はダハクからの念話であった。その瞬間に大地の性質が改変され、ブルーレイジがズルズルと少しずつ土中へと沈んでいく。


『兄貴直伝の束縛の泥沼マッドバインドだ! このまま地中深くに沈めんぞっ!』


 ジェラールの要請を受け、ゴルディアーナを追いかけて来た…… もとい、援軍として駆けつけたダハクは上空より飛来し、真上からブルーレイジを更に押しやる。3体が争う光景は怪獣映画さながらだ。


 本来、ダハクの種族である漆黒竜が好むのは『黒魔法』である。これは漆黒竜の遺伝的な習性とも言えるもの。ダハクも一応は黒魔法を習得しているが、ランクはF級と取って付けたような代物であった。ダハクが最も得意とするのは『緑魔法』だ。竜の中には複数の魔法を修める個体が存在する例もあるが、それでも己の種族の習性に従って優先的に定められたスキルを伸ばす傾向にある。ダハクのような存在は例外中の例外なのだ。本人曰く、「これが一番肥やせる!」だそうだ。


 ダハクの束縛の泥沼マッドバインドによりブルーレイジの足元は底無しの大沼へと変化、自身とボガの超重量にダハクが加わり、沈下が止まる様子はない。


「竜騎兵団自慢のトカゲ共が揃いも揃って、私に挑むか」


 再びブルーレイジから放出される超高温ガス。全身から放たれた熱はダハクとボガだけでなく、混成魔獣団本部を丸々覆い隠すまでに至る。


『っつう……! トカゲ様を舐めんなよっ! ボガ、ぜってぇ放すな! 意地見せろぉ!』

『グルアァ!』


 ガスはダハク達に焼け付き、その表面を焦がしていく。ガトリング砲による射撃を続けていた騎士ゴーレムらが次々と倒れ出し、焼けるような臭いが漂い始めるが、それでも2体がブルーレイジから離れることはなく、大沼に沈めることに集中していた。


「竜は人間と比べて熱への耐性が強いけどぉ、痛いことには変わりないわぁ。ダハクちゃんとボガちゃん、私も今行くわよぉ!」


 ジェラールとゴルディアーナもブルーレイジの目前まで辿り着く。ブルーレイジは既にその下半身を大沼に沈めてしまっている。しかし、両手で沼化していない大地を掴み堪えてはいる為に沈下は止まりかけていた。


「……ゴルディアーナ殿、もうこの辺りまでガスが充満しておるが、本当に大丈夫なのか?」

「おじ様に心配されるのは感激物だけどぉ、ほら見てぇ。火傷ひとつないでしょう? ……あっ、駄目ぇ! お気にのドレスが焼けちゃうぅ!」


 ゴルディアーナは前進しつつも発火し始めた胸元を抱きしめる様に押さえ付ける。頬を染めるその仕草は乙女なのだが、露出されるのは迸る汗と逞しい筋肉のみなので絵面が危険である。唯一の救いはダハクがこちらに気付いていないことだろう。ちなみに全身に炎が燃え盛っていることは全く気にしていないようだ。


(ゴルディアーナ殿、一応生身じゃよな? 先ほどは気で覆うなどと言っていたが、人間なのかのぉ……)


 ジェラールは一先ず深く考えないことにし、意識を戦闘に切り替える。二人が向かう先にはブルーレイジの片腕がタワーのように大地に聳え立つ。狙いはこの腕を破壊し、沼に落ちまいとするブルーレイジの支えを除去することである。腕からも激しく熱気が放たれ続けているが、ジェラール達には意味をなさない。魔剣ダーインスレイヴの刀身が巨大化し、分厚い拳が桃色のオーラを纏っていく。


「―――反射リフレクション


 ジルドラの声にブルーレイジの胸部、タイラントミラが怪しく光り出す。


「うおっ!?」

「ゴアッ!」

「ぐっ!」

「いやんっ!」


 組み付き、ブルーレイジを牽制していたダハクとボガが空へと弾かれ、最大火力の攻撃をぶつけようとしていたジェラールとゴルディアーナが、ブルーレイジの腕に触れた瞬間に反対方向へと吹き飛ばされてしまった。


『これは、エフィル姐さんの炎が撥ね返されたときのっ!』

『あの胸に張り付いた鏡のか!? 不覚じゃ、反射効果は全身に適用されるのか!』


 想定外の反撃に皆かなりの距離を離されてしまった。これを機にブルーレイジは沼を抜けようと両腕に力を込め、徐々に脚部が地上へ上がっていく。


「予想以上にお前たちが粘るものでな。奥の手を使わせて貰った」

「奥の手…… そうですか」


 突然の少女の声。遥か上空からの爆発音。ブルーレイジの頭上へと赤き矢が降り注ぐ。着弾と共に矢は次々と爆発し、その衝撃によりブルーレイジは沼の中へと叩き込まれていく。


「ぬう!」

「奥の手ならば、何度も使える訳ではないのですね?」

「―――!」


 声の主はエフィルであった。弓の先端に灯った紅蓮を揺らしドオン! と爆音を鳴らすは火神の魔弓ペナンブラ。上空より間髪を入れずに放たれ続ける矢は最早スコール、言葉の通り爆撃の嵐。ブルーレイジの胸部はタイラントミラの『鏡面反射』により損壊を間逃れているが、沼への沈没具合は元通りとなってしまう。いや、それどころかこれまで以上に沈みつつあった。


「ならば、再び撥ね返して―――」


 ―――ガシャン。


 周囲に響き渡るガラスが割れたような音。発生源であるブルーレイジの胸部には、一本の矢が突き刺さっていた。 ―――タイラントミラを貫通して。


「予想通り、別種の攻撃は一度に反射できないようですね」

「……ご名答」


 エフィルは自らの魔力で生成した火矢に交えて、アイテムとしての矢を放っていた。それも一般的な矢ではなく、ケルヴィンが鍛え上げた使い捨て・・・・のS級武器である。元々は炎が通用しない強敵を想定してケルヴィンがエフィルに渡した奥の手。エフィルはここが好機と捉え、タイラントミラへと放ったのだ。矢を受けた中心からタイラントミラの体に亀裂が走り、やがて矢と共に粉々に砕け散っていった。


「スキルを抜きにしても、このブルーレイジと同等の装甲を誇るタイラントミラを一撃か。良い矢だな」

「お褒めに預かり光栄、ではないですね」


 エフィルの周囲の空を浮遊していた多首火竜パイロヒュドラが一斉に方向を変え、ブルーレイジへと突撃を行う。更に何時の間にか沼周囲の大地から木々が生え、ブルーレイジに絡み付くように生長を続けていた。沼を牢獄とするならば、さながらこの木々は天然の檻である。


『ったく、熱過ぎだっつの! エフィル姐さん、やっちまえ!』


 ダハクの固有スキル『生命の芽生』も、ブルーレイジが発する熱気によって植物の急成長に阻害を受けていた。理由は他にもあるのだが、ここに来てやっと能力を発動できたようだ。木々はギシギシとブルーレイジを拘束し、両腕の自由をも奪っていた。


「ほう、それも実に良い」


 しかし、それでもこの巨大ゴーレムの攻撃手段を全て奪った訳ではない。ブルーレイジのモノアイが輝き、収縮されたレーザーが放たれ、角度を調整した指先からは光弾が乱射される。レーザーと衝突した多首火竜パイロヒュドラは掻き消され、高速で飛来する光弾がエフィルを執拗に狙う。矢で迎え撃つエフィル、その攻防は一進一退。紅蓮の矢と白き光が上へ下へと目まぐるしく展開される。


「いい加減に」

「しなさいよぉ」


 ブルーレイジの胸部へ深く深く突き刺さる、ジェラールの巨大化した魔剣ダーインスレイヴ。そして頭部ごとモノアイを突き破るのは、ゴルディアーナの拳。グォーン、と動力が落ちる響きが鳴り渡り、ブルーレイジはその動きを止めた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ガン、ガン、メキッ。


「おっけぇーよぉ」


 ゴルディアーナがブルーレイジの背にあった内部への入り口と思われる扉をこじ開ける。


「中はどうじゃ?」

「以外と狭いわねぇ…… 駄目、誰もいないわぁ。何者かがいた形跡はあるんだけどねぇ。どこかに別の脱出ルートがあったのかしらん?」

「逃げられましたか……」

「ゴアァ……」


 ブルーレイジが動きを止めた後、ジェラール達はこの巨大ゴーレムを操っていたドワーフ、ジルドラの捜索を始めたのだが、既にその姿は内部になかった。


「いや、たぶん大丈夫ッスよ。こっそりとゴーレムの内部に猛毒植物を生やしたッスから。即効性じゃないッスけど、俺の知る中で一番治療不可能そうなやつを。そのせいで他の植物がなかなか使えなかったんスけどね」

「まあ、やるじゃない! 見直したわよぉ、ダハクちゃん」

「お、おう、まあな!」


 ダハクの目は泳いでいる。


「一体何者だったのでしょう? ハクちゃん曰く、トライセンのお抱え商人だったそうですが……」

「俺も詳しくは知らないんスよ。だけど俺に付けられたあの忌まわしい首輪をトライセンに売ったのはあのドワーフで間違いねぇ。アズグラッドの与太話の中で聞いたことがあるッスもん」

「不可思議なアイテムの他にこの巨大なゴーレムか…… S級冒険者の線はないかのう?」

「ないわねぇ。私もそんなドワーフ知らないものぉ」

「あー、確か名前もどっかで聞いたな。何だったっけなー、真面目に聞いていれば良かったぜ。 ……そうだ! 確かジルドラって名前ッスよ!」

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