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第171話 月夜に咲く可憐なる花

 ―――トライセン城


 月の光が遮られ、城内一帯が影で覆われる。それは城壁の高さをも超え、途轍もなく、馬鹿らしくなるまでに大きかった。それは突如としてジェラールの眼前に出現し、数多を、全てを見下ろしていた。


(保管スキル、或いはそれに準ずるマジックアイテムから出したのか。しかし、これだけの規模のサイズ――― クロト並みじゃな)


 ジルドラが何処からか取り出したのは、ボガをも超える人型の超巨大ゴーレム。その装甲は土や石などではなく光沢のあるメタルブルー、何らかの金属であることは明白であった。機械的なデザインは時代錯誤も甚だしく、何よりもその大きさ、タイラントミラどころの話ではない。下手をすればトライセンの本城にまで匹敵し得るサイズだ。元々そのように設計されていたのか、タイラントミラが盾の形態となって巨大ゴーレムの胸部へと装着される。


「見られたからには隠れる必要もあるまい。小さき者よ、多少は私のデータの糧として貢献してくれよ?」


 ジルドラはこの巨大ゴーレムの内部にいるのか、胸部から声が聞こえて来る。


「クク…… ガァーハッハ! 努力しよう!」


 思わぬ強敵との会遇、それはケルヴィン一行にとっての僥倖。大国の軍程度では相手とならなくなってしまった戦闘狂の弊害とも言えるだろうか。日々互いの技を磨き、戦い合うことで多少なりはその気質がパーティに広まっているのはここだけの話である。


『メーデーメーデー。ちょっと、ほんのすこーしばかり分が悪いかもしれん。いや、本当に僅かじゃよ? ワシ、支援求む』


 それでも見えない所でやることはやっている辺りジェラールらしい。


 ゴウンと勢い良くゴーレムの各所から排出される蒸気による煙。その排出音が戦いのゴング代わりとなり、ジルドラが動き出す。一歩前進すれば地鳴りが響き、城内の建造物が揺さ振られる。対して救援要請を終えたジェラールは既に駆け出していた。


「ハァッ!」


 魔剣より放たれた極大の空顎アギトが天を穿ち、ゴーレムが左腕を大きく突き出し迎え撃つ。ゴーレムの動きはその巨大過ぎるサイズの為か、非常に緩やかなように錯覚してしまいそうだ。


「ほう! 硬いのう!」


 打ち払われた左腕に衝突したジェラール全力の空顎アギトは甲高い金属音を鳴らし大きく装甲を陥没させることに成功するが、行動不能にするまでは至らなかった。


「それはこちらの台詞だ。この装甲をここまで破損させるとはな。そこいらの障壁よりも強固の筈なのだが、これは設計を再考する必要がありそうだ」


 衝撃を受けた巨大ゴーレムは半歩後ずさるも、そのまま右腕をジェラールのいる地面に叩きつけんと振りかぶる。パーズの名所である時計搭を逆さまに持ち上げられ、それが自分に向かって投じられたと例えればその威力が如何ほどかが分かるだろうか。単純な打撃が面としての範囲攻撃となり、ジェラールは正にそんな一撃を受け止めていた。


「うお、おおぉ……!」


 ジェラールの固有スキル『自己改造カスタマイズ』によってS級にまで強化された戦艦黒盾(ドレッドノート)は無傷であるが、装備者であるジェラールは首の皮一枚のところまで追い込まれていた。盾ごと吹き飛ばされそうになった間際にダーインスレイヴを地面に突き刺すことで半ば無理矢理に勢いを押さえ込む。どれ程の距離を踏み堪えただろうか。地面に敷き詰められた石畳に足を埋め、摩擦熱によりジェラールの脚部は高熱が出るまでに及んでいる。


「次だ」

「む!?」


 ギリギリと拮抗するゴーレムの拳の隙間から湧き出るは灼熱の熱気。触れてしまえば火傷では済まされないであろうそれが、ジェラールの全身を覆い尽くすまで排出され続けた。


(……効いていない?)


 だがジェラールは特に苦しむこともなく、ダメージを負っているようでもなかった。


(生身でなくて良かったわい)


 今ばかりは中身が空の大鎧であることを感謝するジェラールであるが、エフィルから贈られた深紅の外装クリムゾンマントによる火属性耐性があった要因も大きいだろう。エフィルの手助けをするつもりが逆に助けられる形となってしまったが、それはそれでお爺ちゃん大歓喜なので問題ない。


「どっ…… せい!」


 ジェラールは渾身の力で腕を払いのけ、ゴーレムがバランスを崩したところに地表を走る斬撃である地這守宮ゲコウにてカウンターを行う。ゴーレムの爪先にヒットし初撃と同等のダメージを負わせるも、やはり火力不足が否めない。


(何とか凌いでいる、といった感じかのう。何れにせよ、このままではジリ貧じゃ)


 ゴーレムは脚部の破損を気にする様子もなく立ち上がる。


(生半可な攻撃を幾ら加えたところで決定打にはならないじゃろうな。となれば、狙うは弱点部…… 先ほどから声が轟いておる胸の辺りじゃが、そこは例の鏡があるからのう。さて、どうするか―――)


 思考を巡らすジェラール。しかし、そんな最中にこの場所に急接近する者がいた。そう、ジェラールの援軍が到着したのだ。隠す気がないのか、派手に障害物を破壊し土煙を上げながら向かって来ていた為、ジェラールだけでなくゴーレム内部にいるジルドラもまたその気配に気付き、横目にそちらを確認する。巻き上がる土煙から大きく飛翔し、その者は付近で最も高い建物に着地する。


「待たせたわね、おじ様! 月夜に咲く可憐なる花っ! ゴルディアーナ・プリティアーナちゃん、貴方の為に参上よん!」

「何でお主が真っ先に来るの!?」


 一番乗りは意思疎通を持たない筈のゴルディアーナであった。勿論ジェラールはゴルディアーナに応援を要請したつもりはない。


「私の『第六感』がここに導いたのよん!」


 どうやら自力で感付いたらしい。


「理屈じゃないのぉ。言わば、愛の力―――」


 ―――ガガガガッ!


 ゴーレムの指先から光弾が発射され、ゴルディアーナが立っていた建造物を蜂の巣に仕立て上げる。


「ほう、あの指先から射撃による攻撃もできるのか。王のゴーレムのそれに似ておるのう」

「ちょっとぉ、おじ様冷静過ぎるんじゃない? 貴方のヒロインがピンチなのよぉ?」

「あれくらいじゃ死なないじゃろう、お主。 ……え、ヒロイン?」


 当然のようにゴルディアーナはジェラールの隣に立っていた。ご自慢のピンクのドレスに傷がないのを見る限り、完璧に躱し切ったようである。


「何者かと思えば、S級冒険者のゴルディアーナ・プリティアーナか…… できれば系統が異なる者が良かったのだがな」

「あらぁ、とっても渋い声。それにしても余裕の発言ねぇ」

「ゴルディアーナ殿、あのゴーレムは高温の熱気を放つ。近づくときは注意されよ」

「熱気? 大丈夫よん。私、全身気で覆ってるからぁ」

「そ、そうか? ならいいのじゃが…… あー、囮の役目は?」

「問題ナッスィン! 城の転移門を通じて援軍が到着したからぁ、私のお役目も一先ずは終了なのよん! 今度は私の愛を存分にぶつける番ってことよぉ!」

「……そうか」


 昂るゴルディアーナと、どこか悟りを開きつつあるジェラール。モチベーションが両極端の二人であるが、戦力としては最強クラス。これ以上ない頼もしい援軍だ。


「情報共有は済ませたか? それ以上の無駄話はあの世でするといい」

「あらぁ、意外と優しいのねぇ、待っていてくれたのぉ? 別に背後から襲ってくれても良かったのよん」

「私の目的はお前たちの排除ではないのでな。結果よりも過程が大事なのだよ。それに、一人同じような者が増えたところで状況は変わらん」


 ゴーレムの指先がジェラールとゴルディアーナに向けられる。


「そこまで言われてはこちらも退けんのう。ただ、ひとつ訂正しておこう。こちらの戦力は二人ではないぞ?」

「―――!」


 ジェラールの言葉と共にゴーレムの足が土中に引きずり込まれる。脚部に掴まるは岩竜ボガの頑強な鉤爪。超が付く巨体であるゴーレムの重量は崩れ出した大地に飲み込まれ、今や膝元まで埋まってしまった。そして、周囲の建造物から姿を現す複数の影。その者ら携えるは、総計50門となるガトリング砲。


「撃てぇーーー!」


 数え切れぬ光弾が飛び交う中、ジェラールはゴルディアーナを伴い再度出撃する。

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