第112話 王の誕生
―――ケルヴィン邸・セラの私室
「う、ん……」
「お、気が付いたか?」
セラの看病を再開し、白魔法をかけ続けること数時間。時刻は深夜の2時を指し、街ももう寝静まっている。
「あれ……? ケルヴィン、何でここに? 私、確かダンジョンの中で―――」
セラはまだ半分まどろみの中にいるような感じだ。
「ダンジョンの中で倒れたところを、俺が再召喚して呼び戻したんだ。後でリオン達に礼を言っておけよ? 皆、凄く心配していたんだ」
「そっか。私、突然気分が悪くなって、視界が黒くなって…… そこから記憶がないの。倒れちゃったのね」
心なしかシュンとしているようにも見える。
「ああ、でもバッチリ進化したから安心しろ」
「安心って言っても…… えっと、進化がどうしたの?」
何だ、まだ目が覚めていないのか? いや、言葉から察するに、自分が進化の最中だったことも分からないようだな。仕方のない奴だ。
「セラは進化の影響で倒れてしまったんだ。んで、今ちょうどその進化が完了したところ。見た感じ、外見は全然変わってないようだけどな。ステータスを確認してみなよ」
「う、うん……」
まだ頭で理解しきってないようだが、自分のステータスを見れば分かるだろう。俺も鑑定眼でもう一度確認するとしようか。
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セラ 21歳 女 悪魔の紅血王 呪拳士
レベル:108
称号 :神殺しの拳士
HP :2605/2605(+100)
MP :2746/2746(+100)
筋力 :1317(+100)
耐久 :1179(+100)
敏捷 :1240(+100)
魔力 :1423(+100)
幸運 :1585(+160)(+100)
スキル:血染(固有スキル)
血操術(固有スキル)
格闘術(S級)
黒魔法(A級)
飛行(B級)
気配察知(A級)
危険察知(A級)
魔力察知(A級)
隠蔽察知(A級)
舞踏(B級)
演奏(B級)
豪運(B級)
補助効果:魔王の加護
召喚術/魔力供給(S級)
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ステータスが軒並み上昇し、今やメルフィーナに匹敵する程となった。新たな固有スキルも習得している。『血操術』か、名前からして血液を操作するスキルだろうか? これまで受身でしか発動することがなかった『血染』と併せることで、色々と応用できそうだ。
「これが、私の力……?」
「紛れもなくセラの力だ。スキルポイントも貯まっていると思うから、しっかり振るのを忘れるなよ? それと―――」
上半身を起こしたセラと向かい合い、目を見詰める。
「リオン達から聞いたよ。セラの発案で俺の為にS級モンスターを倒して来たんだって。滅茶苦茶強かったんだってな」
できれば俺も誘ってほしかったが。修練場を出入り禁止にしたのが裏目に出たか。
「え、えっと、私も暇してたからって言うか、食料の調達をもののついでって言うか…… とにかくっ、別にケルヴィンの為にやった訳じゃないんだからねっ!」
ツンデレか。可愛いからいいけど。
「それでも、ありがとな」
「あ、あう……」
見る見るうちにセラの顔が赤くなっていき、頭から湯気を出し始めた。
「もうっ! 私は大丈夫だから、ケルヴィンは出て行って!」
「はいはい、それじゃ俺は退散するとしようかな」
駄々っ子のように腕をばたつかせるセラ。別に茶化して言った訳じゃないんだけどなー。まあ物でも投げ出してきたら大変だ。徹夜を覚悟したが、セラがそう言うなら俺も寝るとするとしよう。
「まだ本調子じゃないんだから、しっかり寝るんだぞ。それじゃあセラ、おやすみ」
「ふんっ! ……おやすみなさい」
顔を背けながらではあるが、おやすみは返してくれた。朝には機嫌を直してくれていればいいのだが。
「ふわっ、気を抜いたら一気に眠気が…… さっさと寝よ」
フラフラと私室に帰り、なぜか俺のベッドで寝息を立てながら寝ているメルフィーナを他所に倒れこむ。ああ、今思えばあの地獄の修練からの看病だったからな。そりゃ疲れるわ。などと考えているうちに、俺の意識は沈んでいった。
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―――ケルヴィン邸・食堂
何時ものようにエフィルに起こしてもらう。トントンと隣の調理場から心地良い包丁の音が聞こえる中、食堂でアンジェから発行してもらった最新の依頼一覧表に目を通していると、唐突にドアが勢い良く開かれた。
「待たせたわね皆っ! 私っ! 完・全・復・活よ!」
「……今日はえらく起きるのが早いのな」
「あら、ケルヴィンとエフィルだけ?」
普段であればまだセラも寝ている時間だ。メルフィーナは言うまでもないが、リオンもまだ寝ている。エフィルは調理場で朝食の準備中、エリィは庭園の水やりだ。
「ジェラールはリュカと一緒に朝の散歩に行ってるよ。他の皆はまだ寝てたり仕事中だ」
「えー…… 新しい私のお披露目だと思って、折角早起きしたのに」
「見た目は変わってないけどな」
「そんなことはないわ! 角とか翼とか、ちょっと格好良くなったの!」
髪留めを外さなきゃ分からんわ。しかし昨日と打って変わって、今日はいつものセラだ。どうやら機嫌を直してくれたらしい。よかったよかった。
「ふわぁ…… おはよう~……」
リオンが眠い目をこすりながら食堂に入ってきた。進化したアレックスもリオンの後ろに続いている。
「あら、リオン。早いわね!」
「……セラねえ! 具合、良くなったんだね!」
一瞬の停止後、意識をはっきりさせたリオンがセラの胸に飛び込む。羨ま、微笑ましい光景だな。
「お陰様でね。リオンも心配してくれてありがとう。アレックスも―――」
セラがアレックスを見ようとする。一応、配下ネットワークにアレックスのステータスを載せておくか。これでセラも見れるはずだ。
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アレックス 3歳 雄 深淵の大黒狼
レベル:92
称号 :勇者の相棒
HP :1637/1637(+100)
MP :560/560(+100)
筋力 :1154(+320)(+100)
耐久 :712(+100)
敏捷 :889(+100)
魔力 :556(+100)
幸運 :498(+100)
スキル:影移動(固有スキル)
這い寄るもの(固有スキル)
剣術(S級)
軽業(S級)
嗅覚(A級)
隠密(A級)
隠蔽察知(B級)
剛力(A級)
補助効果:召喚術/魔力供給(S級)
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「アレックスも、大きくなったわね……」
「ガゥ」
アレックスは進化し、深淵の大黒狼という種になった。ステータスもそうだが、何よりも体のサイズが大きく異なる。座った状態であれば頭が天井スレスレなのである。見ると言うより見上げるレベルだ。屋敷の扉をくぐるのもギリギリ。これはジェラールの大剣並みの武器を作らないと装備のサイズが合わないかもしれない。
「うん! それにすっごく強くなったんだー。昨日の夜、我慢できなくて修練場で特訓したりしてさ―――」
リオンのアレックス話は続く。セラは「あれ? 私、心配されていたのよね?」と微妙な表情だ。
「セラねえも無事に進化し終わったんだよね? 何だか雰囲気が凛々しくなった感じがするよ」
「分かるっ!? やっぱりリオンは違うわね。ケルヴィンなんて見た目は変わらないとか言うのよ。ホント失礼よね! それでね、実はこの角の部分とか―――」
それでも状況を巻き返してしまうリオンは恐ろしいものだ。単にセラが単純なだけかもしれないが。
「あっ、そうだ。ケルヴィン!」
「ん?」
「昨日は、その…… 世話をかけたわね! 恩に着るわ!」
投げられたのは、ぷいっと顔を背けての礼の言葉。
「……目を合わせて言ってくれればもっと嬉しいんだが」
「今は無理!」
清々しく断言されてしまった。