第106話 新ダンジョン
―――クレイワームの通り道・新ダンジョン入口
セラ達とゴルディアーナの話合いの結果、新ダンジョンへと足を運ぶこととなった。A級モンスターが出現する未知のダンジョンではあるが、ゴルディアーナが戦力に加わったことで探索は十分に可能だと判断したのだ。ゴルディアーナがひとりの際は抜け穴の死守だけで手一杯の状態だったが、この人数であれば問題ない。誰かしらが見張り役として残るか、間に合わせの対応として魔法で壁でも作って、一時的に覆い隠しでもすればいい話なのだから。
一同はひとまず穴を下っていき、新ダンジョンがある広間を目指す。ここからは松明が設置されていない為、リオンが火照で光源を作り穴を照らす。
「それにしても残念ねぇ。おじ様がケルヴィンちゃんの配下モンスターである鎧だったなんて…… 流石の私も中身がなければお顔も拝見できないし、手の出しようがないわん」
「そ、そうか。残念じゃったな」
鎧の中身が空洞と言っても、ジェラールがその気になれば肉体の実体化は可能だ。あえてジェラールはその事については言及しない。してはならないと本能的に悟っている。
『セラ、リオン、アレックス、絶対に喋ってはならんぞ!』
『分かってるわよ』
念話にて仲間にも根回し済みなのだ。ジェラールも必死である。
「そう言えば、ケルにいの模擬試合の対戦相手ってプリティアちゃんなの? 確かS級冒険者と戦うんだよね?」
リオンが気を利かせて別の話題を振ってくれた。ジェラール、ちょっとほんわか。
「私としては是非そうしたいんだけど、相手は別の子。1年前に昇格した『氷姫』のシルヴィアちゃんね。昇格したばかりの子が相手するのが決まりなのよ。そういえばあの子、自分の時は昇格式も模擬戦もすっぽかしちゃったのよねぇ。戦いぶりを見るのは私も初めてかも」
「サボっても昇格はするんだ?」
「ええ、自由であるのが冒険者の基本スタンスですからね。式典も別に強制ではないわん」
ジェラールの背後を歩くセラがゴルディアーナに顔を向ける。
「さっきから気になっていんだけど、その『桃鬼』とか『氷姫』ってのは何なの?」
「二つ名の事かしら? S級に昇格すると、ギルドから尊敬と畏怖の念を込めて通り名が付けられるの」
「……別にいらなくない?」
「「そんなことはないよ(わん)!」」
リオンとゴルディアーナが綺麗にハモる。
「甘いよセラねえ! 二つ名は絶対なきゃ駄目なんだよ!」
「リオンちゃんの言う通りよ。S級冒険者ってのは世界最高峰の実力を持つ者達の代名詞。それを明確に広く伝達する為にも、二つ名はとっても有効なのよん。私が言うのもなんだけど、西大陸の下手な小国相手じゃひとりで打ち滅ぼせるほどの強さを抱えているもの。ケルヴィンちゃん本人が自分の力に気付いているかは分からないけどねぇ。だから、どんな国もS級冒険者や冒険者ギルドに対しては手を出してこないわ。だって敵に回しても割に合わないもの。あっても精々勧誘くらいよ」
「うんうん。二つ名があれば、「あ、こいつはやばいぞ」感が出やすいしね! 僕も欲しい!」
「そ、そうなのね…… 理解したわ」
ゴルディアーナは各国への警告の面から説いているが、リオンは単純に「格好良いから」という意味合いで言っている。14歳のリオンにとって二つ名は大好物のようだ。
「まだ若いのに話が分かるわね、リオンちゃん! 大丈夫、ケルヴィンちゃんが無事にS級になれば、実力さえあればそのパーティの仲間にも二つ名が付けられる可能性があるの!」
「本当に!? 僕、頑張るよ!」
「何か困ったことがあったら私を頼りなさい、応援してるわ!」
ガシッ! と握手を交わす凸凹コンビ。背丈が噛み合わない為にゴルディアーナがかかんでリオンに向かい合う。先程のセラの件といい、ゴルディアーナはかなり世話焼きな印象だ。
「皆、お喋りはその辺でな。そろそろ広場が見えてくるぞ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―――新ダンジョン・広間
穴を抜けた先にあったのは、小さな街がすっぽり嵌りそうなほどの広間であった。先頭に立つジェラールは広間をチラリと確認する。
(ふーむ、灯りはあるのう)
穴から隠れながら見ただけでも数体の人形型モンスターが視界に入った。配下ネットワークのマップ上にマーカーを取り付け、全員に情報を共有。ゴルディアーナだけはそうもいかないので、ジェラールが口頭で大雑把に伝える。
「準備は良いか?」
「ええ、私は大丈夫よん」
「まずは広間の制圧ね。各々状況を確認後、散開してモンスターを各個撃破。その後にまたここに集合しましょう」
「了解だよ!」
「ウォン!」
各々が広場に散開する。セラは広場のど真ん中を突っ切っていた。
地面は平らに舗装されており、石造りのタイルが埋め込まれている。天井も非常に高く、ここが地下であることを忘れてしまいそうだ。これらの情報だけでもここが人工的に作られたものだとは推測できる。だが、最も先に目に付いたのはその先にあるものだった。
(朽ちた建物がいくつかと、最奥にあるのは…… 祭壇?)
崩壊した建設物も中を調べれば宝箱のひとつもありそうだが、何よりもセラが気になったのは遠方にある祭壇だった。この広場において祭壇だけがその形状を崩すことなく保っていたのだ。不思議なことに神聖な魔力を放っている。
(でもまだ遠いわね。まずは予定通り、モンスターを一掃しましょうか!)
疾走するセラに気付き、鋼鉄製の自動人形3体がセラの行く手を阻む。人形達の両腕からは内蔵された刀剣が露出され、不規則なステップを踏みながら近づいてきた。
振り払われた刀剣を当然のように避け、セラは右拳に耐久を減少させる黒魔法腐食する鎧を施し、人形の腹に拳を叩き込む。メキメキと人形の腹が半壊し潰れるが、まだ倒れない。それどころか反撃しようと両腕を振り上げようとしていた。だが、セラが間髪入れずに視認不可能となっている尻尾を薙ぎ払ったことで、人形はバラバラとなって吹き飛ぶ。
(この人形、ケルヴィン食べれるかしら? まあ、エフィルなら何とかしてくれるわよね。一応回収しましょ)
残りの2体もさして苦戦することもなく数秒後には片付けが完了。セラは人形の各部位をクロトに収納していく。
「怒鬼烈拳ぅ!」
響き渡ったのはゴルディアーナの男気溢れる声だった。赤きオーラを拳に纏わせ、周囲の人形達に強烈な一撃を放っていく。この一撃で赤き拳は人形を貫通し、ゴルディアーナの二の腕サイズの穴をあけたのであった。こちらの部位は最早使えそうにない。
「変わった技を使うのね、ゴルディアーナ! 凄い威力じゃない!」
「西大陸のとある武術を私なりにアレンジしたのよん。セラちゃんも魔法を拳にのせるなんて、面白い戦い方をするのね! 感心しちゃうわん。最後の一撃はよく分からなかったけどぉ?」
「それは秘密よ」
「うふ、謎の多い女って素敵よん」
セラが意思疎通で情報を見る限りでは、ジェラール達もスムーズに事を進めている。セラの察知スキルで確認できた広場にいるモンスターの数は50体程度。この調子であれば移動時間を含めて10分以内には終えることができそうだ。
『セラねえ、『黒衣の勇者』ってのはどうかな? 在り来たりかなぁ?』
『……今は戦闘に集中しなさいな。アレックス、大丈夫だとは思うけどリオンの事を頼んだわよ』
『ワフゥ!』
アレックスの「任せときな!」という感情が伝わってきた。
「もう、やっぱりリオンはまだまだ子供ね」
セラはほんのちょっぴりだけ嬉しそうに呟くのであった。