第417話 今後の世界
俺が悔しさを噛み締め、決意を固めた後の話を少ししておこうと思う。俺としては一刻も早く次元の壁をぶっ壊す方法を確立させたいところなのだが、物事には順序というものがあるからな。こればかりは仕方がない。俺は楽しみを後にとっておくタイプ、俺は楽しみを後にとっておくタイプ――― などと頭に刷り込ませ、何とか気持ちを切り替える事に成功したのだ。フフッ、これからの長い人生に結構な目標ができて、今となっては嬉しい限りだよ、エバァァァ……!
とまあ、そんな俺の心境はさて置き、エバと主要な神々が逃亡した結果、神域にはそいつらに見放された者達のみが残る事となった。例の『戦の神』然り、一緒に出て来た軍服の神々然り、以降ずっと隠れて様子を窺っていた神々然り、である。
『戦の神』がどこかで言っていたと思うが、どうやら軍服連中は本当にあの中では精鋭部隊だったようだ。そんな精鋭達の敗北を目にした神々の士気はだだ下がり、つうか戦意なんて消し飛ぶくらいにやる気がなくなっていた。それでも『主神』なら何とかしてくれる! と、そんな一筋の希望を抱いて隠れていたようだが、前述の通り、当のエバは既に逃亡していた訳で。その事実を知った瞬間、即座に白旗を上げやがった。いやいや、もっと抵抗しろよと、俺は何度も何度も熱心に説得を試みたんだが、どうにも怠惰が染みついた神々には効果が薄く…… ハァ~~~。
まあ、アレだ。神々の戦争、ここに完全決着。アダムスは無事、神々の頂点の座に復権したのだった。めでたしめでたし。
『なあ、アダムスもこのままだと消化不良だろ? あっちでちょっと殴り合わないか?』
『何とも魅力的な誘いではあるが、これから今後の世界の在り方についてを話し合い、残った者達の処遇についても決める必要があってな』
『うー……』
見事にフラれてしまう俺。まあその話し合いとやらには、こちら側の代表としてシュトラとコレットが参加する事になっているし、元から分かっていた事ではあるのだが。ついでに言えば、俺も形だけは同席する事になっているのだが。
そんな感じでモヤモヤしたものを抱えながら、否、キッチリ気持ちを切り替えた俺は、話し合いの最中にこれからどうしようかなぁと悩みつつ、残った神々の性根を鍛え直し、心身共に充実した神へと更生させる案を出すなど、言うべき事もシュトラとコレットを介して、しっかりと言ってもらった。だってさ、腐っても神は神じゃん? 素質は十分な訳じゃん? このまま捨て置くにはもったいないじゃん? ……などと、そういった精神を色々と意訳して熱弁してもらったのだ。
その甲斐あってか、この案は採用される事となった。流石は我が家が誇るリーサルトーキングウェポンの二人――― と言いたいところだが、俺と同じ戦闘狂気質のアダムスも率先してゴーサインを出していた為、別に俺が提案する必要もなかったかもしれない。まあ、この結果には素直に満足です。今日の数少ない収穫と言える。まる。
次に新たなる世界運営についてだが、アダムス達は当初、全ての世界を改変しようとしていた。具体的に言えば、俺達の世界のように肉体の上限をなくし、個人としての強者が生まれやすい世界にしようとしたんだ。この案についても俺は部分的に賛成だったのだが、ここで問題が生じる。
『―――無理だな。ただの我らが封印されていた場所以外、その全ての概念がエバの手によって固定化されてしまっている。全能でなくなった今のただの我では、この状態を覆す事は不可能だ』
と、アダムス自身にそう断言されてしまったのだ。元々世界運営はエバが得意とする分野で、彼女が本気で世界の構造を固定化してしまったら、最早アダムスには打つ手がないとの事。言ってしまえば、俺らの世界以外の全てが地球みたいな感じになっていて、レベルもステータスもスキルもない状態なんだ。
『フッ、今日というこの日に備えて、管理という無駄なリソースを省いたのか。確かに今の形態であれば、自ら神託を下す必要もなく、運営権を渡した配下が怠惰に過ごそうとも、世界は問題なく回り続ける』
『勇者も魔王も居ない世界だからな。国家間での戦争は起きるだろうが、少なくとも腕っぷしだけで世界を揺るがすような個人は生まれない。だからこそ後はその星々の問題で、神々は放置していても問題がない。そういう事か』
後に聞いた話だが、アダムスとエバの二人で世界を構築していた際は、今よりも圧倒的にこちら側の世界が多かったそうだ。それが今の状態になってしまったのは、アダムスを封印して以降、エバが少しずつ移していったんだろうとの事。
まあぶっちゃけた話、今ある世界にあり方についての全てに改変を施すのは、元々反対しようと思っていたんだけどな。最初からそういう世界なら問題はないが、いきなり地球みたいな状態からレベル制になっても、混乱が起こるのは目に見えている。そんな状態から強さの頭角を現すのは、レベルアップの為の人殺しを生業にしていた、カシェル達みたいな人間になってしまうだろう。そいつらが俺やアダムスが望む人材かと問われると、また違うんだよなぁと。だから、これはこれで良し。まる。
……しかし、俺は思ってしまったんだ。あっ、上限を取っ払えば、巨大怪獣が誕生する可能性は僅かにあるか? 向こうの環境でしか成し得ない独自の要素があると思うし、そうなればちょっと話が変わるが、う、ううーん…… どうしよう、結構魅力的かもしれない! クッ、俺は一体どうすれば良いんだ……!? ってな。この悩みは本当に深刻だった。
『あなた様、歯を食いしばり過ぎて血が出てます。子供に見せられない顔になってますよ?』
『だ、だっでぇ……!』
悩みに悩んだ結果、俺はその可能性を諦めた。どう考えても地球に不幸しか起こらないし、マリアの世界に似たような生物が居るという事で、そちらの案に乗り換える事にしたのだ。今度招待してくれるんだってさ! 会わせてくれるってさ! 千メートルの怪獣、楽しみだなぁ!
……さて、スッキリしたところで話を戻そう。今ある世界は変える事ができない。ならば、アダムスが新しく理想の世界を創造する事はできるのかと言うと、全能から戦闘へ全振りしてしまった現状、決してそんな事はなく――― つまるところ、エバからアダムスに諸々の権利が映ったところで、世界に大きな変化が起こる事はないらしい。うん、お前最初からこうなる事が分かっていたりしない? ただエバとの再戦をする為の口実だったんじゃない? 分かるよ、俺もよくやる手だから。自分磨きに夢中なアダムスが、今更世界の運営に本気で取り組むとも思えないしな。
『で、そうなると今後の運営方針は現状維持って事になるのか? 放置とも言い換えられるが』
『うむ、そうするしかあるまい。今や転生神以外の神は無用の長物、下手にシステムに手を出しても良い事は何もないだろう。プリティアちゃんよ、皆から絶対的な信頼を得ている貴様には、引き続き転生神を担ってもらいたいのだが…… 構わないか?』
『そうねぇん。中立の立場から考えさせてもらおうと思ったのだけれどぉ、肝心の相手が逃げちゃったら、それどころじゃないものねぇん…… 分かったわん。私、やる! 世界唯一の神としてぇ、この世界を光と愛で満たしてみせるわぁん!』
ゴルディアーナも続投が決定。但しこれまでの転生神とは異なり、神のまま地上で活動をするらしい。神の縛りとかその辺どうなんだという指摘もあるが、俺としては切磋琢磨できる関係を維持できるのなら何でも良いです。まあ、ゴルディアーナなら何とかするだろう。よし、絶対的な信頼で解決。まる。