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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第416話 茜色が紅に染まる

 俺達は走った。心に嫌な予感を抱えながらも懸命に駆け抜けた。手には『戦の神』を拘束したロープを持ち、地面に引き摺りながら悲鳴を無視した。途中、マリアと久遠が本格的に観光宣言を口にし、離脱をしてくれちゃったりもしたが、今となってはツッコミを入れている暇もなかった。兎に角、だ。俺達は全速でエバの下へと向かったのだ。


 そうして辿り着いた場所は、一面が茜色で覆われた広大な空間だった。どこまでも空が広がる足場のない空間なのだが、不思議と地面は踏み締められる。また、中央には立派な玉座が置かれていて、そこには誰も座っておらず――― ただ一枚きりの紙切れが、投げ捨てるように置かれていた。


「……アレ、罠か?」

「そんな気はビックリするくらい全然しないわね」

「と言うか、ここまで来る間も本当に何もなかったね……」

「王が引き摺っていた例の者は、ずっと悲鳴を上げていたがのう」

「うごごごごご……」

「ああ、すっごい頑丈だよな。俺が思うに、今はアレだが磨けば光る逸材だと―――」

「―――おい、話が逸れているぞ! 今はそんな奴の話など捨て置け!」

「エバめ、もしや…… いや、今はそれよりも、あの紙か。グロリア、『間隙』でアレを取れるか?」

「当然」


 グロリアがそう言った直後、彼女の手には玉座にあった紙が握られていた。そうした後も特に何かが起こる訳でもなく、茜色の空間は静寂を保っている。やはり罠はないようだ。


「マジで何もないみたいだな…… で、結局それは何だったんだ? 置手紙か?」

「……手紙ってほどの文章量ではない。ただ一言だけ、恐らくはエバが書いたであろう文字が記されている」

「グロリアよ、それを読み上げるがよい」

「………」


 アダムスにそう命令されるグロリアであったが、これを口にして良いものかと、僅かにそんな感じの迷いがあるように見受けられた。ただ、このまま黙っている訳にもいかず、渋々といった様子で声に出し始める。


 ―――旅に出ます。探さないでください。


「「「「「………」」」」」


 この場に居合わせた一同、揃いも揃って黙りこくってしまう。


「……え? ごめん、俺が聞き間違えたのかな? 今何て?」

「旅に出ます。探さないでください。 ……それ以外には何も記されていない。この一言だけだ」


 ほら! と、グロリアが紙切れを皆に差し出し、これが現実である事を示してしまった。つまり、だ。神々の親玉、アダムスの半身、何百何千年と『主神』としてあの玉座に居た筈のエバは、迷う事なく逃走してしまったと、そういう訳? ……は?


「い、いや、まだだ! 俺には狙い目の神ベスト10が、まだ残っている! 『宙の神』、いや、今なら『秩序の神』でも良い! そいつらを捜し出そう!」

「ケルヴィン、それも可能性が薄い気がするわ」

「何でッ!?」


 セラに食い気味に聞いてしまう。


「私、さっき言ったじゃない。強い気配が揃って・・・居なくなった気がする、って。揃ってってのは、当然複数って意味よ?」

「つ、つまり……?」

「主だった神々は全員エバに付いて行った、そういう事か~」

「ぐぅっはぁぁぁ!?」

「ご、ご主人様~~~!?」


 アンジェの真実の言葉が、俺の胸に容赦なく突き刺さる。俺はリアルに血を吐いた。


「最早この神域には、腑抜けた馬鹿共しか残っていないという事か。ハァ、全く拍子抜けだな」

「ア、アダムス、どうする……? 戦い、始まる前に終わってた、よ……?」

「ふうむ…… 『戦の神こやつ』を誑かしての時間稼ぎ、敢えて他に何もしない事で猜疑心を生ませるこの手口――― なるほど、費用対効果を重んじるエバらしい撤退戦だったと、今となっては納得できる。見事に一本取られた訳だ。ククッ、流石はただの我の半身よ」

「感心しているところ悪ぃんだけどよ、また一からエバとその一派の奴らを見つけなきゃならねぇんだろ、これ? しかも、捜索範囲は宇宙……? とかいうクッソ広ぇ場所全域なんだろ? 滅茶苦茶面倒じゃね?」

「ッ!」


 血を吐いている最中、不意に聞こえて来たダハクの言葉に僅かな希望を見出す。そうだよ、逃げたのならまた追えば良い。楽しみは後に取っておけって言うし、今日のところは神域に残された出涸らしの神々を見つけ出して、『戦の神』共々光るところを探す事に勤しもう。うん、それが良い。そうしよ―――


「―――残念だが、それは無理だな。どこに居ようとも感じられていた感覚が、今は完全に無に帰してしまっている。恐らく、エバらは別世界に移動してしまったのだろう」

「別世界、ですか?」

「マリアや久遠が元居た世界のようなもの、とでも言った方が分かりやすいか。本来は絶対に交わる事のない次元、エバは残った力の全てを使い、その扉を開いたのだ。こうなっては、最早見つけるのは不可能だろうな」

「ごぉっふぉぉぉ!?」

「ケ、ケルにい~~~?!」


 アダムスの冷静過ぎる情報整理が、俺の胸に無残にも突き刺さる。俺はリアルに血の涙を流した。


「ハァ、ハァ…… ま、まだだ。俺はまだ諦めるつもりはないぞ……!」

「お、おい、戦ってもいないのに、ケルヴィンが瀕死になっているぞ? 大丈夫なのか?」

「ああ、平常運転なのでお気になさらず。ですが、あなた様? 妻として重々に気持ちを察しますが、これ以上どうするおつもりで?」

「要は越えられない次元をどうするかって話なんだろ? なら、話が早い。こっちにはマリアと久遠っていう、その壁を越えて来た実例がもう居るんだ。二人に頭を下げるなり土下座するなり何でもして、その手段を使わせてもらえば―――」

「―――あ、それ多分無理だよ? 妾達がここに来たのって、ルキルちゃんが道標になってくれたからこそだもん。次元を越える術は確かにあるけど、狙って行きたい世界に行けるものじゃないんだよね、これが!」

「ぶぅっがぁぁぁ!?」

「ケ、ケルヴィンお兄ちゃん、流石にそろそろ堪えて!?」


 タイミングよく現れたマリアが口にした現実が、俺の胸に止めとばかりに突き刺さる。俺はその場に倒れ、見えない床に血の海を作った。


「前もって言っておくが、ただの我の『幻想掴み取る啻人ブラックファンタズム』でも無理だぞ。理由はマリアのものと同じく、最早エバの行き先に見当が付かないからだ。まあ、つまりだな…… ケルヴィンよ、ドンマイである」

「………」


 これ以上の流すものがなくなった俺が、以降に叫びを上げる事はなかった。ああ、逃がした魚のなんと大きい事か。


 ……だが、同時に決心もついた。いつか、いつか次元の壁を狙って越える術を見つけてやるぅぅぅ……!

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