第415話 神の尖兵(大幹部)
アダムスが開いた不気味な道を駆け抜け、俺達は遂に神々が住まうという神域へと辿り着いた。そこは白翼の地のような空飛ぶ大陸のような場所で、雰囲気も正にそっくりと言ったところ。アダムス曰く、こういった空中大陸、或いは空中島がそこかしこにあるんだとか。大陸&島ごとに気候や四季も違うらしい。
観光的にも良い場所だなと思う一方で、本日のメインとなるエバ、サブの『宙』君を見つけるのが大変そうだなぁと、少しだけ辟易もしてしまう。どうせなら、相手の方からやって来てくれないかな? などと、そんな都合の良い考えが頭を過ぎるが、現実がそう甘くはない事は誰もが分かっている。だからこそ、願いを叶える為に足を動かすんだ。さあ、獲物を探すぞ!
「クッフッフ、漸くやって来たようだな、アダムスとその一派よ! 貴様らが復活しここへ来る事など、とうの昔にこの『戦の神』が見破っておったわ! 残念だったなぁハァッハッハッハァーーー!」
「って、本当に来た!? つうか、妙にテンション高いな……」
各パーティごとに行動を開始しようとしたその瞬間、俺達の前に謎の集団が現れた。いや、自分でもああ言っているし、十中八九ここの神なんだろうけど、恰好があんまりそれっぽくないんだ。指揮官らしき大声の奴といい、全員が軍服をベースにしたフルアーマーみたいな恰好と言うか。神々の神秘をどこに忘れてしまったのか、正直現代に寄り過ぎな気がします。
「率先して前線に出て来る辺り、相当腕に自信があるのかしら? 見た目的に正直そんな風には見えないし、私の勘も、う、ううーん……? って、そんな感じだけど!」
「セラ、だからと言って油断はするなよ。ひょっとしたら、実力を隠すのが上手いタイプなのかもしれない。アダムス、アレが『戦の神』なのか?」
以前教えてもらった狙い目の神ベスト10、確か『戦の神』ってのは、そこに名を連ねている神の筈だ。何でも戦争の際、レムが『支配』で操る手勢を相手に激戦を演じ、劣勢になりながらも相当の数を打ち破ったのだとか。また、権能の出目が悪かった状態のパトリックがタイミング悪く横切って、そこにも一撃を入れて重傷を負わせる偉業を成し遂げた。 ……いや、後半のは単に運が良かったエピソードだな、これ。けど、全盛期の十権能を相手にそこまでやったんだ。実力は疑いようがないだろう。
「うむ! ……うむ?」
「え、それどっちのうむ? 肯定じゃなくて?」
「いや、それがな…… ただの我が記憶している者と少しばかり、いや、随分と雰囲気が異なっている。腹回りなどの容姿的な要素もそうだが、精神面も差異があるように感じられるのだ。レムとパトリックよ、貴様らはどう思う?」
「……誰?」
「あんなの居たっけ……?」
「フゥーハッハッハ! どうしたどうした、邪神共よ! さっきから押し黙ってばかりではないか! 動揺する貴様らの心が手に取るように分かるぞ! まさかこの『戦の神』が直々にやって来るとは、夢にも思っていなかったのだろう!」
どうやらアダムスだけでなく、レムとパトリックも確信が持てないようだ。そんな彼らに対し、『戦の神(仮)』はすんごい調子に乗っている。まあ、確かに動揺はしているけどさ。
「ケルにい、取り合えず戦ってみれば分かるんじゃないかな? 今の神様がどれだけ強いのか、これからの指標にもなると思うよ?」
「ああ、リオンの言う通りだな。アダムス、見ての通り向こうはやる気だ。残念な事に戦いは避けられそうにない。俺達としては平和的に解決したいところだったが、ここは実力行使に出よう」
「フッ、顔がにやけておるぞ? だが、ただの我も賛同しよう。マリアと久遠はどうする?」
「んー、今回はパスしておこうかな? 何か過剰戦力になりそうだもん」
「おばさんもここでお茶しながら見学してるよ~。浮遊大陸なんて、そうそうお目にかかれるものじゃないものね~」
「フゥーンハッハッハッハッハ! ワシを前にして足がすくみ、動く事ができないのかぁ!? ならば、こちらから行かせてもらおう! 積年の恨み、今こそ晴らすでらぁぁぁッ!」
指揮官の号令の後、一斉に襲い掛かって来る軍人系神様集団。不明瞭な点は全く解決されていないが、やる気がある事は大変に喜ばしい。そんな訳で、俺達は喜々として戦闘へと突入するのであった。
……うん、うん、ううーん? これは一体全体、どう評価したら良いものかな。あれだけの三下な台詞を並べていた『戦の神』だったが、決して弱い訳ではなかった。十権能やアダムスをも乗り越えた、今の俺達ともそれなりに戦えている。それなりに、それなりに――― って、それなりに戦える程度じゃ駄目でしょうが!?
こいつらに問いたい。君ら、義体じゃなくて神様の本体で戦っているんだよね? なのにこの程度って、期待外れにもほどがあるよ!? いやまあ、多少は戦えているから、実際は肩透かしよりも少し上くらいの感触なんだけど、それでも評価としては義体を使っている十権能より随分下よ!? 何これ、聞いていた話と随分違うんですけど!? アダムス達も首を傾げながら戦っているし!
「こ、これは一体どういう事なのだぁッ!? 精鋭たるワシらの実力に加え、装備は最新式のもので固められておる! かつてないほどに優位的な状況であるというのに、なぜにこうなるぅぅぅ!?」
うん、本当にどういう事なんだよと、俺も叫びたい。そんな訳で戦闘は順当な結果を迎え、不殺な上に全員拘束に成功してしまうという。
「神域に居る最近の神様は怠惰を極めているとは聞いていたけど、どうやら戦闘力にも影響しちゃってるみたいだな。それとも、こいつは『戦の神』を語る偽物だったりする?」
「ふざけるなッ! ワシは全ての戦場を統べる唯一神『戦の神』であるぞ!」
「元気だなぁ。拘束された状態でそこまで言えるのは、まあある意味で大したもんだけどさ…… セラ」
「とおっ!」
「うぐっ!?」
このままにしていてもうるさいだけなので、セラの首トンで黙らせる。
「ッチ! 仮にこいつが本当に『戦の神』なのであれば、想像以上にエバ達は堕落している事になる。こんなアホ共に俺達は敗北したのか? ふざけるなッ!」
「ケルヴィム、落ち着けよ。ガッカリしているのは俺も同じ気持ちだけど、負けた理由に関しては大体アダムスのせいだ」
「うむ、ただの我、絶賛反省中である」
「ア、アダムスに責任転換させるのは違うだろ!? そ、それよりも、だ! 無能な手駒とはいえ、罠や策を使う事なくそれを手放すとは、どうもこれまでのエバや『秩序の神』らしくない。これは何か裏があるぞ……!」
露骨に話を変えたな。だが、その意見には同意するところだ。防衛に当たらせるにしても、これではあまりにあんまりだ。こいつら以降、他の神達が襲い掛かって来る様子もない。さて、どうしたものだろうか。
「「……ん?」」
これからの行動方針に悩む中、不意にセラとマリアが同時に同じ方向を向いた。え、何よ? 凄い嫌な予感がするんだけど?
「どうした?」
「んー、気のせいかもだけど…… ねえ?」
「なんとーくレベルの予感がしたと言うか…… ねえ?」
「いや、二人で通じ合っていないで、もっと具体的に教えてくれ」
「「それがさぁ…… 神域の奥にあった強い気配が、揃って居なくなった気がする」」
「……皆、ダッシュで行こう! 全力ダッシュ!」
頼む、今回ばかりは外れてくれ、二人の勘ッ……!