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誕生!白銀の魂剣士(中編)

俺が通っていた高校は、県内でもトップクラスの進学校だった。

家の方針で何事も常にトップを取るように命じられていた俺に、この高校以外の選択など始めからさせてもらえなかった。

親の命じるままにこの高校を受験し、難関と言われる試験を突破した俺は(まあ俺にとっては難関でも何でもなかったが)、晴れてこの学校に入学を果たすこととなる。

一年目は何事もなく過ぎていった。

だが二年生になったある日、事件は起こった。


その日はちょうど小テストが返される日だった。

担任から返されたテストの結果に生徒たちは一喜一憂といった様子だ。…まあ俺にとってはテストの結果など始めから分かりきっているので、クソ面白くもないイベントなわけだが。

そうして俺が既に返された満点のテストを無感情な瞳で見つめていると、突如として怒声が聞こえてきた。


「おい高橋、何だこの点数は!?」


思わず顔を上げると、担任がクラスメイトの高橋を怒鳴りつけていた。

そんな担任を見て、他の生徒たちは「あーあ、またか」という表情をする。

実はこの教師、生徒いびりをすることで有名なのだ。

特に成績の悪い生徒には厳しくあたるらしく、あまり成績の良くない高橋などは格好の標的にされていた。

正直こいつが担任になると聞いたときは、クラスメイトのほぼ全てが己の運命を呪ったことだろう。


「す、すみません……」


今にも泣きそうになりながら、担任に向かって平謝りする高橋。

しかし担任の怒りは一向に収まる気配がない。……そりゃそうだろう。

いいか高橋、こいつはお前の為を思って怒るような出来た教師じゃねぇんだよ。

こいつは自分よりも劣った存在を見つけていたぶることで、自分の方が格上であるというちっぽけなプライドを満たす…そういう奴なんだ。

お前のその態度は奴に餌を与えているようなモンだって、いい加減気付けよ。


「まったく、いつもながらお前の低脳ぶりには呆れるよ。よくお前のようなクズが我が校に入学できたものだな!ええ?お前のようなクズが!!」


担任の暴言は留まるところを知らない。

高橋もこの学校に入学できたくらいだから、中学時代は優等生だったのだろう。

しかし高校に入って授業についていけなくなり、成績も落ちていった。……そんな感じだろうか。


「やれやれ……お前のようなクズの担任になってしまうとは、つくづく俺も運が悪い。…おい聞いているのかクズ!このクラスの……いや、この学校の恥さらしが!!」


正直成績の良い悪いは自分の責任だ。これに関しては擁護するつもりは全くない。

……だが、だからと言って自分の教え子をクズ呼ばわりし、罵倒するようなクソ教師を擁護するつもりも全くない。

気付いた時には、俺は立ち上がっていた。


「先生、ちょっといいか?」


突如として割って入った俺に、クラス中の目が一斉に向けられる。


「チッ……何だ三上」


おいおい、今舌打ちが聞こえたぞ?

すみませんね、お楽しみの所を邪魔して。


「大したことじゃねぇさ。ただあんたの言うクズの定義ってのがどんなもんか、ご教授願いたいと思ってね。」


すると担任は、何故だか自信たっぷりの様子でこう言い放った。


「決まっているだろう!高橋こいつのような頭の悪い、何の役にも立たない人間のことだ!!」


「あー、そう。だったらさ……」


俺は全く予想通りの答えが返ってきたことに笑みを浮かべると、席を立ち、黒板に向かって歩きだす。

そしてチョークを手に取ると、黒板に向かって数式を書き連ねていった。


「これ、解ける?」


出来上がった数式を俺は担任に見せる。

担任は案の定、口をあんぐりと開けた間抜け面を晒していた。……そりゃそうだろう。

これは某有名国立大学レベルの問題なんだ。教師でも解けるやつはそうそういないはずだ。

俺は笑いをこらえつつ、更に煽りにかかる。


「あれ~、どうしたのかな~?この問題が分からないなら、俺からしたら先生も頭の悪い、何の役にも立たないクズってことになっちまうぜ?」

「う、うるさい!!」


担任は教壇をバン!と叩くと、高橋のことなど完全に忘れた様子で今度は俺の襟首を掴みにかかった。


「三上、お前は確かに優秀な生徒だ。だが、だからと言って調子に乗るなよ?生徒は俺の言うことだけ聞いて、大人しく勉強していればそれでいいんだ!」


至近距離で喋んなっつーの。さっきから唾飛んでるし、息くせーんだよ。


「大体な、前から思っていたが何なんだ、お前のその態度は!教師に対する敬意というものが…」

「……」

「おい!聞いているのか、みか……」

「うるっせぇんだよ!クソジジイ!!」


俺は奴の顔面を思いきり殴り飛ばした。

今までケンカなどに巻き込まれて、人を殴ったことなら何度もある。だがこんなに怒りのこもった拳で殴りつけたのは、この時が初めてだっただろう。

無様な格好で倒れた担任の襟首を今度は俺が掴むと、その背を黒板へと叩きつけた。


「本当のクズってのはな、テメェみたいな奴のことを言うんだよクズ教師!

何が敬意だ。テメェにくれてやるのはこの拳だけで充分だ!!」


そこから先は想像に難くないだろう。

俺は担任を殴ったことで退学処分となった。

せめてもの救いは、クラスメイト達が俺の退学を取り消そうと学校側に働きかけてくれたお陰で、担任の問題行動や発言が明るみになり、奴をこの学校から追い出すことに成功したことだろうか。

……まあ結局、俺の退学は取り消されることはなかったが。


「ごめん、三上君。僕のためにこんなことになっちゃうなんて……」


退学が決まった日、高橋は何度も謝ってきた。

そんな高橋に、俺は苦笑しつつ答える。


「別にお前のためにやったわけじゃねぇよ。あいつには俺もムカついてたからな」

「でも……」

「だからいいって。それより、お前はもう二度とあんなクズ教師に目をつけられないようにもっと勉強しとけ。……じゃあな」


その高橋との会話が、この学校での俺の最後の会話となったのだった。



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