魂剣術(ソウルアーツ)
俺は夢でも見ているのか?
思わずそんなことを考えたが、すぐに頭を振って思考を取っ払った。
そもそも、異世界に召喚されるなんてトンデモ体験を既にしちまってるんだ。この程度で驚いてる暇はねぇ。
ここはもう俺の暮らしていた日本じゃねぇ、異世界なんだ。地球の常識なんぞ通用しねぇと思ったほうがいい。
俺は男が召喚した剣を注意深く観察する。
一口に剣といっても色々あるが、奴が召喚したのはレイピアと呼ばれる類のものだ。
細身の刀身で、斬撃ではなく刺突を目的に作られた剣。
しかも奴が召喚したレイピアはやたらと豪華な装飾が施されており、奴の人間性を物語っているように思えた。
「そいつがその魂剣術ってやつか?一体どんなカラクリだよ」
そんな俺の言葉に、男は得意気に笑みを浮かべた。
「ふん、魂剣術を知らないだと?さっきも訳の解らないことばかり言っていたし、お前、頭がおかしいか相当なバカのどちらかだな!」
うわ、バカにバカ呼ばわりされたよ。すげームカつく。
「何だよ、得物を手に入れた途端ずいぶん強気になったじゃねぇか。けどそれ、典型的な雑魚のパターンだぜ?」
「黙れ!その減らず口、二度と叩けないようにしてやる!!」
そう言って男がレイピアを構え、突進してくる。
もちろん、武器を手にしたくらいで俺がこんな奴に負けるわけがねぇ。
ただまあ、奴の攻撃力とリーチが上がって、些か不利になったことは確かだったが。
「ははははッ!どうしたどうした!?さっきまでの威勢はどこに行ったんだ!!」
水を得た魚ってのはこういう状態のことを言うんだろうか?男はレイピアを用いた連続突きを次々と繰り出してくる。
「頼むからもう喋んなって。お前が喋るとザコ度がどんどん上がって、こっちは笑いをこらえるのに必死なんだからよ」
やれやれ……中途半端な力を持った雑魚ほどロクなもんはいねぇ。
いい加減こいつに勘違いさせとくのもムカつくし、そろそろ目を覚まさせてやるか。
そう思い、俺が回避から攻撃に転じようと拳を固めたその時だった。
「あらあら、青春ですわねぇ」
その、この場にそぐわない穏やかな声が聞こえてきたのは。
そしてやや間を置いて、妙齢の女が姿を現した。
『!?』
するとどうしたことか、生徒達が女に向かって一斉に頭を下げ始めた。無論、さっきまで俺と対峙していた金髪の男や、後ろのデカ乳女も例外ではない。
またもや起こった不足の事態に、俺は再びデカ乳女ことアンジュに質問する。
「おい、誰だよあのオバさん」
するとアンジュは顔面蒼白といった表情になり、俺の頭を掴みにかかった。
「ば、バカ、この学園の学園長よ!早く頭を下げて!」
「なっ!?お、おい、よせ!」
学園長というなら、こいつらのこの態度も理解出来る。
だが俺はお前らと違ってこの学園の生徒じゃねぇんだよ。その俺が何でこの学園のルールに従わなくちゃならない?
しかし学園長は、そんな俺の態度を笑って許した。
「構いませんよ。皆さんも楽にしてちょうだい」
その言葉に、生徒達は安堵したように一斉に頭を上げる。
そして学園長は、その中の一人であるアンジュに目を向けた。
「聞きましたよアンジュさん、何でもあなたを巡って二人の男子が決闘していると。若いっていいわねぇ。本当に羨ましいわ」
「なっ……ち、違います!別にそんなんじゃ……」
学園長の言葉を、アンジュは顔を真っ赤にして否定する。
そうだ、断じてそんなんじゃない。
何でこいつを巡って俺が決闘なんかしなきゃならねぇんだよ。俺はあの男がムカついたから、ちょっとシメてやろうと思っただけだ。
「うふふ……まあ、そういうことにしておきましょうか」
学園長は微笑を浮かべると、今度は男の方に向き直った。
「でも、学園内での私的な魂剣術の使用は禁じられているはずですよ?それが解らないあなたではないでしょう、クロード君?」
「す、すみません。つい頭に血が昇って……」
さっきまでの態度はどこへやら。男は学園長に向かってペコペコと頭を下げている。て言うかあいつ、クロードって名前だったのか。
「それから……」
と、今度は学園長が俺の方に向き直る。
そして驚愕の言葉を発した。
「あなたは、この世界の人ではありませんね」