アルカディウス学園(後編)
いくら赤の他人とは言え、女が襲われるのを見るのはあまり気持ちのいいもんじゃねぇ。
俺はすかさず二人の間に割り込むと、金髪の男の腕を掴んだ。
「えっ!?」「なっ!?」
前と後ろから同時に驚きの声が上がる。
やや遅れて左右のギャラリーたちがザワつき始める声も聞こえてきた。
「……ッ!な、何なんだお前は!一体どこから……」
怒り半分、戸惑い半分といったような眼差しで俺を睨み付ける男。
優しい俺は男の腕を離してやると、親切に男の問いに答えてやった。
「入口から」
「そんなことは解っている!僕を馬鹿にしているのか!?」
「あー、じゃあアレか。出身は何処かってことか?日本だよ、日本」
男の白い肌が徐々に真っ赤に染まっていく。
何だよ、せっかく質問に答えてやったってのに。
「もういい……お前が僕を馬鹿にしているということだけは、よく解った」
そう言うと男は、真っ直ぐに俺に向かって指を突きつけた。
「これ以上僕を侮辱し尚且つ邪魔をするというのなら、まずはお前から血祭りに上げてやる!!」
「……へぇ」
おいおい、こいつ今何て言った?
こいつが、この俺を、血祭りに上げる??
「プッ……はははは、はーっはっはっはっは!!」
もう俺はこみ上げてくる笑いを抑えることが出来なかった。
「な、何がおかしい!?」
何がおかしいだと?おかしいに決まってるだろうが
「お前なぁ…そういう台詞は自分より格下か、少なくとも対等の力を持った奴に言うもんだぜ?」
「当たり前だろう。もし、お前が僕を止められたくらいで勝った気でいるなら大間違いだぞ。あれはお前がいきなり出てきたから、ちょっと驚いただけなんだからな!!」
あー……ダメだわ、こいつ。
「そうかい……だったら教えてやるよ。格の違いってやつをなァ!!」
そう言って俺は飛び出した。
目の前の男は一瞬何が起こったのか解らないような表情をしていたが、ようやく戦いが始まったのだということを悟り、拳を振りかぶろうとする。
だが……
「遅ぇよ!」
俺の拳が奴の顔面に到達する方が圧倒的に早い。男は無様に吹き飛ばされた。
「がはぁッ!!か、顔が……僕の美しい顔がぁぁ……!」
「オラ、どうしたお坊ちゃん?あいつに迫ってた時のしつこさを俺にも見せてみろよ」
「く、くそぉッ!」
男は再び立ち上がり、俺に向かって次々と拳を突き出す。
だがその拳はあまりにも遅すぎる。明らかにケンカ慣れしておらず余裕で躱せた。
そもそも身体能力でいえばあの女の方がずっと上だろう。見ただけで解る。
それなのにこいつ、力ずくでモノにするとか抜かしてたのかよ?
だとしたらアホにも程がある。それとも他に何か秘策でもあったのか?
「野生の獣ってのはな、自分より強い相手は狩らねぇもんなんだ。相手との力量も見抜けねぇ様じゃ、お前獣以下だぜ?」
やれやれ……異世界に来ても、居るのはこんな口だけのバカばっかかよ。
結局この世界でも、俺の退屈は満たされることはないのか……。
そう思っていると、男が何やら意味深な言葉を発した。
「くっ、こうなったら魂剣術で……」
ソウルアーツ?何だそりゃ。
初めて聞く言葉だが、何故かその言葉にはやたらと惹かれるものがあった。
とりあえず一番手近な奴に訊いてみるとしよう。
「おい、デカ乳女」
「なっ!?誰がデカ乳女よ!私にはちゃんとアンジュって名前が……」
「お前の名前なんか訊いてねぇんだよ!それよりソウルアーツってのは何なんだ?」
すると赤毛のデカ乳女、もといアンジュは目をぱちくりとさせた。
「え……?魂剣術を知らないとか、嘘でしょ?」
「知らねぇから訊いてんだろうが!!」
思わず言い争いに発展しそうになる。だが、そうはならなかった。
俺の意識は再び男に向けられていた。何故なら奴に信じられないことが起こっていたからだ。
奴が自分の胸に手をかざした瞬間、その胸の辺りが光り始めたのだ。
その光はだんだん大きくなっていったかと思うと、次第に収束していく。
そして光が完全に消えた時、奴の手には……
ひと振りの剣が、握られていた。