アルカディウス学園(前編)
一番最初に目に飛び込んできたのは、抜けるような青空だった。
けど、おかしいな。今日は曇り空だったはずなのに。
いや、それよりももっとおかしいのは……
「生きてんのか、俺は……」
あの時俺を襲った、謎の歪み。
俺の身体はあの歪みに取り込まれ、そこで意識も途絶えた。
だから、もしかしたら死んじまったのかもしれないと思っていたんだが……
「まさか、あの世とかいうオチじゃねぇだろうな?」
そう思って辺りを見回してみる。
すると、俺の見慣れない景色が次々と飛び込んできた。
まずは地面。それはアスファルトではなく、綺麗に舗装された石畳によるものだ。
そしてその石畳の先には、デカい建物があった。
「何だありゃ……」
俺は建物をもっとよく観察しようと、更に近づいてみる。
まず見たところ、建物は三階建て。中央部は時計塔になっているようで、そこの部分だけ抜きん出て高い。ここにいても、時計がカチカチと時を刻む音が聞こえてくる。
外壁は白で統一されており、清潔感のある印象だ。
そして更に建物の周りを歩いてみたところ、グラウンドや体育館、講堂らしき施設も発見することが出来た。
以上のことから推察すると……
「学校、だよな。どう考えても」
おそらく間違いないだろう。
だが俺の記憶には、こんな外観の学校など存在しない。
そもそも日本にあるような雰囲気の学校じゃねぇ。例えるならそう、ゲームや漫画に出てきそうなファンタジー世界の学校の様だった。
そしてこれは周りを歩いていた時に解ったことだが、どうやらこの学校は小高い丘の上に建てられているらしく、その下には賑やかな街並みが存在していた。
しかしその街並みもこれまた日本風じゃねぇ。この学校と同じく、中世ヨーロッパを思わせる西洋建築だった。
こりゃどう考えてもあの世って雰囲気じゃねぇよな。何より身体の感覚はちゃんとあるし。
となると……俺の頭の中を考えたくもない想像がよぎった。
「まさか……異世界ってやつか?」
ありえねぇ、と叫びたいくらいだった。
異世界の存在なんぞ信じないし、信じたくもねぇ。だが、この身に感じる太陽の温かさや風の爽やかさ……それは夢だと片付けるにはあまりにもリアルだった。
「……ずっとここに居ても仕方ねぇよな」
仮にここが異世界だとしたら、まずは情報収集が先決だ。この世界のことや自分が置かれている状況……現状を把握しておく必要がある。
街に出て情報を集めるのもいいが、それよりはこの学校の方が断然近い。
俺はニヤリと笑うと、学校の中に乗り込んでいった。