97話 パパを日本語にしてみたまえよ、ドヤ顔でオヤジは言った
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とりあえず、魔族を孕んじゃってた女たちとハンニバル将軍以外のことについては話す。
敵の位置、数、構成、装備、などなど。
僕の口から言葉が出るにつれてマルクトの正規兵たちが落ち込んでいくのがわかる。
一方、赤銅色の鎧に身を包んでいる兵士、おそらくはケテル帝国の兵士たちの間にもマルクトの正規兵たちの消沈した空気が次第に伝染していった。
話し終えると、この場で表情筋を平常運転させているのは僕とユーリと、そしてヨナタンさんだけとなっていた。
しばらく、ため息と沈黙が続く。
そして終始、疑わしそうな目をしながらも僕の言う事を黙って聞いていたヨナタンさんが最初に口を開けた。
「にわかには信じられませんな。魔族の数が多すぎまする。誇張では? そもそも、偵察したのは真夜中と言うではありませぬか。それではいくら夜目が効いても正確な数の把握はできないのではないですかな」
「あ、僕って気配を読むのが得意なんですよ。例えば、あの閉じられた門の後ろにあなた方の国の兵士さんたちが二百人ばかり殺気立ってるのとか。さらに向こうにあるあなた方の国へ出る扉をくぐった先には二千ばかりの兵士が待機していたり、とか。すぐわかっちゃうんですよね」
僕の軽い口調の言に、ヨナタンさんの太い眉が僅かに動いた。
相手が予想外とする図星を唐突に言って出方を伺ってみたんだけれど。
常人ではわからないくらいの微妙な変化しか表面に出さないのはさすがというべきか。
ヨナタンさんの戦闘力にこっそりとプラス10加点しておく。
しかしながら、彼の後ろにいたケテル帝国の兵士たちの動揺によるざわつきが盛大なネタバレになっていた。
「喝ッ! 痴れものどもめッ! 静まらんかッ!」
すると、ヨナタンさんがいきなり叫んだのである。
びりびりと空洞内を震わせたその怒声に、ケテル帝国の兵士たちは一斉に直立不動になる。
「ここへは私一人で来るべきでしたな」
ヨナタンさんはゆっくりと息を吐いた。
それを眺めていたユーリも深くため息を吐く。
「それでは、ヨナタン殿。民の受け入れには手続きが必要だと、ここに止めたのは嘘だったのですね? あなた方は始めから、私の民を受け入れるつもりは、なかったのですね? この交渉の場は、あなた方には虚構でしかなかったのですね?」
言葉を一つ一つ選ぶように言ったユーリ。
それにヨナタンさんは小さく頷いた。
「如何にも。あなた方には、最期の一兵になるまで戦って、そして死んでもらいまする」
そのだみ声は伽藍洞へ不気味に響いた。
†。oO(『さっそくカロゥンちゃんを呼んじゃいますよぉ~っ! こんなこともあろうかとオボロス銅貨をマスターに内緒で持ってたんですよねぇ~。でゅふふふ~、私って先見の明があるぅ~。えっとぉ~、たしかこのへんに入れて…………あれ?』)




