95話 その頃一方、とある魔剣の冒険が裏番で始まっていた
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黒い扉の向こうは巨大な空洞だった。
まるで天高くそびえる壁のような山の内部を全部くり抜いたかのような空洞。
ありえないが、そんな感じに錯覚してしまう。
実際、左右へずっと薄暗い空間が広がっているのを肌で感じた。
さまざまな方向から水が滝のように打ち付ける音が微かに響いている。
ていうか、山の中なのに川が流れているらしかった。
急流の音が下の方で聴こえるのだ。
目をヒルデの前方へ向けるとずっと向こうの方まで幅広の橋のような道が続いていた。
横一列に並ぶと、優に三十人くらいは並べそうだ。
その両脇には何本もの松明が燃えている。
しかし空間の巨大さに比べると燃える火の弱弱しい光はじんわりと暗闇に吸い込まれていた。
それでも、この伽藍洞が真っ暗ではないのは、所々の空中でフヨフヨと光っている蛍のような小さい蟲の集団が浮いているからだろう。
その薄い光源を頼りに空洞の遠くの方まで視野を広げてみる。
迷宮みたいに入り組んだ階段や通路、さらには木造の橋や足場の残骸などが数多く認められた。
ドワーフたちはこんな穴を掘るのにどれくらい悠久の刻を数えたのか計り知れない。
僕は三度目のため息を吐いてしまう。
こうなってくると、まるで観光気分であるが、そういうわけにもいかない。
幅広の橋の上を奥へ奥へと歩いていくヒルデの後をちょこちょこついていく。
すると無骨な石造りの砦門みたいなものが橋を通せん坊していた。
精緻な彫刻が処処に施されている橋の上に乗っているとは到底思えないほど、機能面重視のお堅い門である。
場にそぐわなさすぎる。
おそらく、あの門は後付けなのだろう。
確か、エライム砦はケテル帝国とマルクト王国の間の関所になってるって言ってたっけ。
たぶん、それだ。
砦門は固く閉ざされていた。
その手前、橋の中央。
そこには急ぎ拵えたかのような微妙な大きさの机がちょこんと置いてあり、そのこちら側には黒髪の少女が、向こう側には黒髭の厳ついオッサンが椅子に座っていた。
さらに、机に向き合う二人を挟んで、こちら側には数十人のマルクト王国正規兵たちが整列しており、向こう側には数十人の赤銅色の鎧に身を包んだ屈強男たちが腕を組んで立ち並んでいる。
そしてこちらと向こうで、ぴりぴりした空気が辺りに振り散らされているのである。
ふうん。
だんだん状況を察してきたぞ。
僕は数えるのも面倒になった今日何度目かのため息をこっそり吐いた。
†。oO(『……あれ? ここはどこ? 私はいつの間にお花畑に来てしまったんでしょうかぁ~。ん~? あっ、あれは……っ! ミノスくんがどういうわけか川の向こうで手を振っている……っ! やったぁ~っ! 焼肉おごってもらえるぞぅ~!』)




