93話 順番は守るために存在るんだ(震え声)
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アルデバランで駆けること数時間。
小高い丘の上で僕は平原と壁のような山脈の境界線を眼前にしていた。
「なんじゃありゃ」
『じゃじゃーんっ! あれこそが、ドワーフたちからマルクトがパチッた城塞っ! エライム砦、別名“白き山裾城”でぇ~すっ! わーぱちぱちぱちぃ~』
本当に白かった。
そこは到底、登ることが不可能なくらい急勾配の山腹。
というかもはや天井へと伸びる断崖絶壁といった感じの山が左右に翼を広げるように地の果てまで続いている場所だった。
僕でさえ、感嘆のため息が漏れる。
「現実的にはあり得ない山だなあ。どこまで伸びてるのさ」
『西は世界の終りまで。東は死海を超えた所まで続いてますねぇ~。だからエバル山脈を超えるには東の死海を超えた先にある山終りまで迂回するか、もしくはこの砦の奥にあるドワーフの坑道を通るかしかありませんねぇ~』
絶壁のようなその山にVの字の切れ込みが入ったかのような部分に目を向ける。
あれは渓谷と言っていいのかわからない。
しかし渓谷としか言いようがない。
そんな渓谷擬きの入り口の山腹絶壁には、優しそうな顔をした女性の巨大な立像、おそらくはこの世界の女神像が阿吽像のごとく彫刻されていた。
さらに渓谷を少し入った場所。
そこに高さ五十メートル以上はある純白の巨大な壁が谷を塞ぐようにどしんと立ちはだかっているのが見える。
まるで僕がいた世界で言うところのダムだ。
そんな堅牢そうな純白の壁の中には、これまた純白の城塞都市が渓谷の終わりまで段々畑のように何層にも積みかさなって鎮座していた。
各階層はそれぞれ二十メートルほどの壁で隔たれている。
その壁の上の所々には投石器と思しき大きな機械がいくつも乗っている。
その間を慌ただしく鎧をつけた人間たちが行き来していた。
また、城塞都市の一番上の層。
すなわち俯瞰したときに白い壁を底辺とした城塞都市が造る△の、最奥の頂点。
山腹に入った切れ目の終点と重なるそこには、断崖に嵌め込まれるようにして背の高い城が建っていた。
その突き出た尖塔の先には、剣を咥えた獅子がキメポーズしているこの国の旗が小さくなびいているのが見える。
その塔の中から、ユーリとヒルデの気配が風に乗って漏れてきている。
「さて、どうするかな」
馬上で考える。
白い壁の手前。
渓谷の入り口付近。
女神像が見下ろしている平原には老若男女様々な人間、そして馬たちが溢れていた。
人間の方の数は、およそ二千から三千。
馬は千ばかりはいるだろうか。
おかしいなあ。
国外脱出するはずなんだけれども。
彼らはすべて兵士たち、というわけではなく。
そのほとんどが命からがら逃げてきたというような気配をしていた。
まるで白い壁の本流に吸い込まれていく支流みたいな列を作って砦に入るのを待っているふうだ。
割り込みをするのもなんだし、一番後ろにでも並んでおくかな。
そう思って最後尾の看板を持った人がいないか烏合の衆の中をウロチョロ探して馬を進めていると野太い声に呼び止められる。
はい、なんですか。
「イズレール殿ですな! 姫さまがお待ちです! さあ、お早く!」
馬に乗った正規兵っぽいオッサンがこっち来いしている。
あの顔どこかで見たことあるな。
記憶の糸をたどってみる。
あ、確か、ギレアムさん率いる傭兵たちにボコされてたオッサンだ。
何やら切羽詰まった感じの声音だった。
なので仕方なく白い壁へ入るために順番待ちしていた人たちを馬で追い抜かしながら、そのオッサンに付いていくことにした。
†。oO(『あれっ? なんですか愚民の皆さん、その目はぁ~。順番ぬかししても文句言わないでくださいねぇ~。っていうか我、魔剣ぞwwwそこのけそこのけ魔剣が通りますよぉ~wwwえへんえへんwwうぇっへんっうぉっほんっ……げほっげほげほっ、なっ、なんかのどに詰まりましたぁひえぇ~っ』)




