8話 物色なう
*
砦の中。
石造りのそこは外気よりも少し肌寒い。
だからだろうか。
中にある死骸は腐りの進行度がゆるく、苦悶と恐怖の表情が未だ死人に認められた。
「はいはい、すみませんねー。ちょっと通りますよー」
死骸を避けつつ徘徊。
時折、ムーンウォークして動きに緩急をつけてみる。
「おっ、おおー! 良いものハケーン」
そんなわけでせっせと物色しているとなんか赤い十字架のマークが刻まれた見るからに救急セットみたいな箱を見つけた。
自分が入れそうなくらい結構、大きい箱である。
「えいや」
ゲームで勇者がよくやるように勝手に箱のカギを壊して開けてみる。
外側は少し焦げていたが、中身は大丈夫のようだ。
箱の中には薬壺みたいなものと白い包帯らしきものの他、一見しても使い方がよくわからないその他もろもろがぎっしり。
っやりい。
指をぱちんと鳴らす。
使い方のわからないものは井の中の剣にでも聞けばいいだろう。
よっこらせと箱を担ぎ、ドラゴンのもとへさっさと戻ろうと踵を返す。
その時だった。
「あれ?」
違和感を覚える。
それは砦の中の一郭に設けられた、教会によくある祈りのための場所って感じの部屋。
奥には優しい顔した女神像が微笑んでいるが、この場ではミスマッチすぎる。
なんせ、そこは非戦闘員の避難所にされていたのか、中には大勢の庶民っぽい人間が重なって死んでいるわけである。
彼らはみんな、何かにすがるような顔のままほとんどが弱火であぶられたような死に方をしていた。
ま、それは置いといてだな。
問題なのはその中の一つ。あれは女の人だろうか。
首に銀製のロザリオみたいな装飾を吊り下げてるその死骸の倒れ方。
何かを、隠そうとしている?
それも、文字通り、必死で。
こうなってくると好奇心がむくりとなるわけです。
いや、一瞬。
ちょっとだけ、ほんのちょろっと、見てくるだけだから。
ドラゴンには悪いけれど、もう少しだけ手当は我慢してもらおう。
僕は救急箱を地面に置いて、件の死骸のそばに走って行った。