86話 となりの魔剣は強そう（確信）
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遅れて轟く雷鳴。
「おいおいおいおいおいおいおい、なんだよあれ」
熊のように大きな巨体を揺らすハンニバル将軍。
彼は、今や稲妻を身に纏っていた。
僕が与えたはずである首筋の致命傷は、バチバチという漏電音とともに。
瞬く間に塞がっていった。
「ちょっと待て」
高笑いを戦闘曲にして戦斧を構えようとするハンニバル将軍を手で制する僕である。
「ちょっとタンマ。おいお前。あれは何だいったい。魔剣はこの世界の属性に対応してるんじゃなかったのか？ ええおい」
逆手に構えた剣に聞いておく。
『え？ そうですよぉ～？』
「だったらあれは何だ」
『あ～、あれは雷属性。風属性の上位互換的なやつですよぉ～』
「はあ？」
『ほらぁ～、風をこすり合わせて静電気を起こしてバチバチ、みたいなぁ～？ まあ、そのへんは私もわかりませんけどぉ～。なにせ私はちょーレアな闇・属・性っ！ ですからぁ～っ！ どやあぁっ』
「……お前が病みに病んでるのはきっと脳みそだ」
『だから私に脳みそなんて原始的なものありませんよぉ～。失礼しちゃうなぁ～。それよりもマスターぁ？ 避けないとまずいですよ、あれ』
「わかって……は？」
信じられないことが起こる。
ついさっきまで少し距離を置いて間合いをとっていた場所に将軍がいた。
そして彼は一歩踏み出そうと脚部の筋肉を軋ませた。
そこまでは確認できていた。
んで、次に気づいたときは、熊のような巨体が目の前で戦斧を振り下ろしていた。
馬鹿な。
ありえない。
油断していたとはいえ、僕の目では捉え切れないほどの速さで？
考えている暇はない。
戦斧が僕の頭蓋をかち割る寸前で、回避行動に移る。
「が、はッ……！？」
と、思ったら、将軍の足が僕の腹を蹴っていた。
くそ、フェイントだったか。
衝撃を少しでも殺すため自分から吹っ飛びながら考える。
やはり、分が悪い。
今の僕では不意打ちで一撃必殺しない限り、この男をぶち殺す手立てはない。
そしてその不意打ち一撃必殺は残念なことにさっき挫かれてしまった。
けれど、良いものはたくさん見れたし、良いこともたくさん聞いた。
これでハンニバル将軍に“適応”できる。
もう十分だ。
というわけでここにいる理由もなくなったし、残る選択肢は一つしかないよね。
地面に何度か身体を撃ち付けられながらも体勢を立て直し、そのまま脱兎のごとく逃げ出そうと足に力を入れて走る。
はずだった。
「あ、……っれ？」
がくり。
そんな擬態語の幻聴を聞きながら僕は膝から墜落して大地に転がる。
