81話 魔剣の根源、以下略
その頃一方、将軍はというと。
脇にあった二杯目の酒樽に手を延ばそうとしていたところをタケミカヅチタンとやらにたしなめられている最中だった。
「あのう」
仲よさげなその夫婦の空気をかき分け、手を挙げて自己アピールする。
「ん? なんじゃ、もう終わったか小童」
「いやいや、失礼しました。こちらの調教の不手際でお見苦しいところを。それで、ですね。できれば、もう少し詳しい話を聞きたいんですけど。あなたはその、魔族ということでいいんですよね」
「如何にも。そして小童。察したとは思うが、お前も魔族であるぞ」
「はあ、何というか。本物の化物になった実感ないんですけど」
「いや、化け物ではない。魔族と言ったのは少しばかり語弊があったやもしれん。儂とお前は生物としては完全なる人間じゃわい。しかしこの世界の人間ではないが故に、儂とお前は魔人、ということになっとるがの」
「魔人?」
「この世界の者と交わることで無限の魔族を産み出せる、つまり魔剣に選ばれし儂ら六人の異世界より来たりし者のことじゃ。がははッ! その顔は理解が追いついていないと見える。いや、疑っておる顔か? まあ、よいわ。ならば小童。魔族を殺したときに何故、跡形もなく消えるのか考えたことはあるや否や」
「いや、それはそういうもんだと」
死体を片付けなくて便利だなあ、くらいにしか思ってなかった。
ハンニバル将軍は呆れたふうに首を横に振る。
「いかんな。いかんぞ。ならば今、ここで考えてみよ」
「さあ」
肩をすくめる。
だって、そんな無駄なことに思考を割いてたら次の瞬間にもあの戦斧で真っ二つにされそうなんだもん。
この場所は将軍の腹の中と同じだ。
隙を見せたら消化される。
まあ、長い間留まってても消化されちゃうんだけどね。
僕が考えてることを見透かしているのかいないのか。
そんな読みとりづらい気配を醸しながらハンニバル将軍は快活に笑う。
これから僕は何回将軍ののどちんこを見なきゃなんないのかな。
げんなりする気分を鼓舞してタイミングを密かに探る。
「がははッ! さては小童、考える気などさらさらないな? いや、結構ッ! 潔き事は良いことじゃッ! ならば応えてやるのが武の情けじゃわい。魔族は何故死ねば消えるのか。あやつらはな。もともとこの世界には存在してはならん存在じゃからだ。死んだ後の屍をこの世界に置いておくことができぬから消えるのじゃ。なんせ、この世界とは違う世界からやってきた儂らが産み出したものじゃからのう。本来ならば、在ることを許されぬ」
「へえ。ということは僕が聞いていた魔王を倒すために魔剣が造られたというのはデマだったんですね」
「いや、まったくのデマではないわい。事実はその逆じゃからの。すなわち魔剣は魔王を産み出すために造られ、儂らも魔王とその配下になるために連れてこられた。この世界の女神とやらに」
「…………なんで?」




