79話 そして守りたい、このガハハ
なんて馬鹿力だ。
おおよそ人間の出せるスペックとは思えない。
とか思ったけれど未だに震えて波打っている杯の中のお酒を眺めてため息を吐く。
震えていたのは大地ではなかったらしい。
「それで、こっちの世界にはいつ頃来たんですか? ちなみに僕は一、二週間ほど前なんですが」
「ほう。最近じゃな。かくいう儂はちょうど一年ほど前じゃったかのう。地獄ならぬ違う世界へ飛ばされるなぞ誰が想像できようか。少しばかりぶったまげたわい。がははッ!」
「僕もわりと驚きましたよ、ええ」
どうやらあっちの世界とこっちの世界では時空がゆがんでいるらしかった。
ま、そうなるよな。
でないと二千年以上も時差のある人間同士がこうして談笑できるわけがない。
こほん、と咳を吐く。
とりあえず前座はこのくらいにして、そろそろ本題に入ることにする。
「ところで、どうして魔族の将なんかを? もしかして魔剣から聞いてないんですか。僕らは魔王を倒さないと元の世界に帰ることができないんですよ」
「そのようなことは――」
ハンニバル将軍の目をじっと見据えてみる。
すると将軍は口角を釣りあげて、歯を見せながらにんまりと笑った。
はあ、と吐いた息の酒臭さがここまで臭ってくる。
「百も万も承知。とーくに知っとるわ。そして、とーくと理解もしておる」
「へえ。じゃあ、その上で――――そちら側に付いていると?」
ハンニバル将軍は耳をほじり始める。
「いかにも。儂は四天王が一柱、侵略作戦あっち方面全部ぶち滅ぼし大隊軍団長ハンニバル・バルカなり。ほれ、拍手はどうした小童。がははッ!」
うーわー、しーてーんーのーだー。
魔王と一緒に引き篭もってるんじゃなかったのかよ。
四天王を目の前にして気分はひかえおろーこのもんどころが以下略。
拍手喝采して囃し立てると将軍は大音響で高笑いを奏でる。
客観的に見て煽ってるはずなんだけどなあ、この酔っ払いめ。
笑い上戸なんかな。




