7話 ここから伝説(いど)は始まった
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ドラゴンはどうやら翼をやられているようだった。
あと身体のあちこちに切り傷やら何やらがあって、気丈にふるまっているが傍目にもカラータイマーがピコンピコン状態であることは明白だ。
清潔な布。
消毒するためのアルコールか何か。
あとできれば薬の類があればいいんだけどなあ。
ドラゴンの手当に使えそうなものを求めて砦を囲む丸太壁の内側、城下の集落へ這入る。
しばらく散策して物色してみると、所々に転がってる黒焦げの肉塊たちの中に疑問を見出した。
「あれ? なんか兵士っぽくない人もステーキになってるんだけど?」
我が子を抱いたまま死んでる母親の図を見ながら剣に聞いてみる。
『あー、ここって砦と町が合体してる感じなんですよねー。戦の時は周りに住んでる庶民集めて、真ん中に建ってるあの砦に立てこもりますからー。その辺にある兵士じゃない死体は逃げ遅れたか何かしたんじゃないですかー?』
「ふうん」
民間人ハ皆避難ダァー、とかはしないんだなあ。
『そんなことよりもマスターぁ、そろそろズラかりましょーよー。いつ魔王軍が戻ってくるかもわからないわけですしー』
「ドラゴン手当てして、死体を全部埋めたらね」
三日徹夜して半分くらいは供養したし、あともうちょっとだ。
心配なのは穴を掘る場所が少なくなってきたことくらいですべて順調である。
だというのに、剣はふてくされてるような声を上げる。
『ええぇー! 前者はまだしも、後者は厳しいんじゃないですかぁー? いくらマスターが音を置き去りにする勢いで穴掘ってもぉ、もう腐ってきてるしぃ、はなから原型とどめてないのもいっぱいあるわけですしぃー』
「諦めたらそこで試合終了ですよっていう名言が僕の世界にはあってだな」
『スラダンは名作ですねぇ』
なぜ知ってる。
まあ、いっか。
「それに一度始めてしまった手前、途中で投げ出したら格好つかないでしょ」
『そこは臨機応変に要領よくなりましょーよー』
「わかったよ。仕方ないなあ。じゃあ穴掘って埋めるのを繰り返すんじゃなくてたくさん穴掘ってからまとめて埋めよう。あと、ぐちゃぐちゃになってるのは悪いけど合同埋葬ってことに、しよっ」
『なぁーにが、しよっなんですかぁー。マスターの杓子定規っ! 漱石枕流っ! 頑迷固陋っ!』
「あっ、ちょうどいいところに何かを捨てるのにお手ごろな井戸があるじゃないか」
『一度決めたことはてんで譲らないマスターひゅぅかっけーっ! あっ、砦に行けば何か使えるものまだ残ってるかもしれませんよー?』
「ふうん。かもね。うん。よし、そうするかな」
剣を井戸の中へ投げ捨ててから、歩を石造りの砦へと向かわせる。
『なんてヒドイマスターなんだ!』
決めたのはそっち(笑)