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ある日、空から剣が降ってきた。  作者: まいなす
第一章 “白き山裾城”決戦
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74話 へし折られるために存在るんだ(震え声)


 目の前に散らばった、腹部が大きく膨れ上がった全裸の女たち。

 アンミと同じくらいの年端のいかない子供のものもあれば、閉経間近といった中年のおばさんもいる。

 そんな年齢層ザックバランな死体を見下ろしながら僕はため息を吐いた。


 やっぱり殺気が漏れちゃったようだ。

 軍勢の最奥で膨大な殺気が鎌首を上げ、大気を微かに揺らしている。

 明らかに招かれざる鼠の存在に気づかれた。


 歓喜する獣の気配が触覚に突き刺さる。


 まあ、いい。

 残り十数人の女たちを手早く片付けてさっさとスタコラしよう。


 クレイモアを握りなおして、どこかの誰かさんの頭部を破壊するために振るい続ける。


『ちなみにマスターはどうして魔族が自らの子を他種族に植え付けるのかわかりますかぁ~?』


 さっきまで一人ずつにぶち殺しのお願いをして回っていたのであるが、彼女たちのほとんどが正気を保っていた。

 お腹が異常に膨張している以外は、どこにでもいそうな普通の人間だ。


「そりゃあ、まあ。母体が敵に発見されたときに、その敵が母体を破壊することを躊躇するからだろ」


 残念なことに僕はしなかったけどね。


『あったりぃ~っ! 魔族はオツムはばかなんですけど生態としてはわりとよくできてると思うんですよねぇ~。マスターはどう思いますぅ~?』


「よくできている、というか。できすぎている感じはする。それに、オツムが弱いというけど、それも疑問だぜ。森の木を切り倒して攻城兵器の材料を現地調達してるのもさることながら。あらかた見てまわったけどこの軍勢、人間型が多い。というか人間型がほとんどだったろ。それもクローンみたいに同タイプばかりだ」


『それがどうかしたんですかぁ~?』


「お前なあ。少しは頭を働かせなさいよ」


『あはは、やだなぁ~。マスターこそ頭を働かせてくださいよぉ~っ! 私には働かせる頭なんてどこにもないじゃないですかぁ~っ! 失礼しちゃうなぁ~っ!』



「この脳無しナマクラ塵屑め。いっちょ前に屁理屈こねやがって」


『うわそれ差別ですよ差別ぅ~っ! 脳みそがなくたってお尻があれば屁理屈はこねれますぅ~。剣差別はんたぁ~いっ!』


「お前には理屈が出るケツ穴もないだろ」


『やだなぁ~。マスターってばアイドルは排便しないとか思ってるくちですかぁ~? はっは、わろすっ』

 

 なんだかとても汚らわしいものを腰に差している気分に襲われたので、僕は腰に吊っていた剣を掴むと放り捨てた。


『それでぇ~? マスターは何をそんなに気にかけているんですかぁ~?』


 少しエコーのかかった剣の声が向こうの茂みから聞こえてくる。


「お前、言ってたろ。魔族のビジュアルは色んなやつがいるって」


『そうでしたっけぇ~?』


「そうでしたの。んで、にもかかわらず、だ。ここにいるのは人間型ばかり。あまりにも偏向しすぎているだろう?」


『魔族が意図して人間型の魔族を増産してるって言うんですかぁ~?』


「たぶんね」


『それってメリットあるんですかぁ~?』


「画一化された兵士はそれだけで脅威だぜ。装備とかは量産で賄えるし。現にここにいるやつら、みんな規格化されたふうな鎧とかをつけてただろ。あと個がないから戦力を単純に数値化しやすい分、戦略立てる時の計算が楽になる。集団戦闘においてそれは強みだ。迅速な戦術の構築が可能になる」


『へぇ~っ! マスターってばわりと馬鹿なのにそんな賢そうな台詞を一生懸命に考えてたんですねぇ~っ! さっすがぁ~っ!』


「そうそう。できるだけ賢そうにみえるよう見栄を張ろうとしてさっきから頑張って自分の台詞を考え…………お前、あとでへし折る」


『なんでっ!?』


 なんのことはない。

 褒められたから照れ隠しで対応したまでだ。


 剣と他愛のない話をしているうちにいつの間にか、魔族の兵隊増産器となっていた人間の女は残すところ一人となっていた。

 僕は長い黒髪を小さくも精緻な髪飾りで以て後ろでくくっている彼女の前に立つ。



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