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ある日、空から剣が降ってきた。  作者: まいなす
第一章 “白き山裾城”決戦
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73話 苗を生やすには栄養たっぷりの苗床が必要



 というわけで、女の子の頭蓋をクレイモアで破砕する。

 首から上を失くした彼女の肢体はゆっくりと地に伏した。


 周囲には一糸まとわぬ女たちが無数にいた。

 クレイモアを振って血を取り除いている僕を彼女たちは黙って眺めている。

 彼女たちはみんな悲鳴を上げるどころか、むしろ救われたふうな、そんなどうしようもない目をした眼球を眼窩に納めていた。


「なんだかなあ」


 胸のあたりがモヤモヤしてきたぞ。

 そうは言ってもやることはやらなきゃならない。


 僕は先の女の子の死体を抱きながら、彼女にひたすら謝る母親らしき人物の頭部を、同様にして粉砕する。


 痛みのない死に方で。

 それは僕が彼女たちをぶち殺す代わりに、彼女たちが出した条件だった。


 ついで、エライム砦へ行ったユーリたちの武運に祈りを捧げていた修道士らしき妙齢の女性。

 彼女の首から上を砕く作業に移りつつ剣に再び確認する。


「お前、本当にこうするしか方法はないんだろうな」


『おやおやぁ~? マスターもしかして心が痛んでますぅ~? そうですよねぇ~。いくら魔族の苗床に成り下がった人間でも見てくれは普通の人間ですからねぇ~』


「いや、殺気を漏らすのが嫌だっただけ。無視できるなら無視しておきたかったの」


『そんなの今さら遅いじゃないですかぁ~。何度も言ってますけどぉ~、こうなったらもう、殺してあげるのが彼女たちのためですよぉ~? 放っておいたら魔族を産んで増やすだけですしぃ~。逆に今この人たちを殺しておくと、栄養不足でお腹のなかの魔族は全部まとめておっちんじゃいますしねぇ~』


「嫌なんだけどなあ。そういうの。殺すことが仕方ないみたいな、そういうマヌケな風潮を産み出しそうな雑い感じ」


 こんなあんまり愉しくない殺しをするのは僕の精神衛生上よろしくない。

 殺してくれと言う人間を殺すほど虚しいことはないのだ。

 逃げるか立ち向かってくるかしてきてくれないと。


『そうは言っても仕方ないじゃないですかぁ~。すでにこの人たちの身体はぁ、魔族の子を孕まないと生きてけないような仕様に改造されちゃってるんですからぁ~。自分の意思に関係なく、魔族の子種や卵を欲するように脳みそをリプログラミングされちゃってますからねぇ~。あっ、その顔はどうやってって疑問に思ってる顔ですねぇ~? 簡単に言うと、それが気持ちいんですよぉ~。とっても。あれですよあれ。麻薬と同じですよぉ~。一度やられたら最後、死にたくてもぉ~、再び快楽を得たいから死ねない、そういう二度と抜け出せない深いふかぁ~い井戸に堕ちちゃうんですよねぇ~。それにどのみち、魔族の子が胎内から出るときには母体の栄養を根こそぎ攫っていきますからぁ~、この人たちはもう助けられないですねぇ~』


「ふうん。ちなみに、このままだとどれくらいの魔族が増える感じ?」


『ざっと見積もって一万の魔族の子が産まれる感じですねぇ~。ちなみに魔族って産まれるときは豆粒くらいですけどぉ~、数時間後には成体になって戦える状態になるまで成長しまぁ~す』


「うーん。それは困るよなあ。ただでさえ多いのにこれ以上増やしちゃうとなあ。まあ、今さら一万増えてもって感じだけど。でも、やっぱ敵の補給を断つためにも、ぶち殺しておくべきだ。今ここで。そうなんだけれども。なんだかなあ」


 心臓の上のあたりが、ぞよぞよする。 

 そして火傷のない左の眼球から何か熱いヌメリとした液体が流れ出てくるのである。

 こんなことは師匠をぶち殺したとき以来だ。



 時は日が沈んで、二つの月が夜空を照らす頃合い。

 それは魔族の軍勢がたむろしてる一帯へ潜入すること二時間ほどのこと。

 点々と集団を組んで焚火を囲んで就寝という人間じみた野営をしていた人型魔族たちの間を縫うようにして軍勢の奥へと進んでいくと、その中に家畜のように鎖に繋がれた人間の女が集まっている集団があったので不思議に思ってゴミに聞いてみたら曰く。


『ああ、あれは魔族の苗床ですねえ。魔族は自らの下位存在を生み出すときには他種族と交配しなければならないんですよねぇ~。そっかぁ~。どうりでここの魔族は人間型が多いわけですねぇ~』


 それは聞き捨てならないことである。


 少し迷ったが、みすみす敵が増えるのを見過ごすわけにもいかない。

 そんなわけでこっそりその女たちにぶち殺されてくださいとお願いしたら、快く承諾してくれたのである。


 そして今に至る。


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