71話 折れない剣、要らない魔剣
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轟、という余韻が収まって土煙が晴れたのはそれから数秒後のことだった。
自分の目の前から扇状に抉れり削られた地面を眺めてヒューっと軽く口笛を吹いて感嘆する。
クレイモアを太陽の光にかざすと、傷一つついていなかったからである。
「うーん、折れないっていうのは本当だったんだな」
『マスターってば、普通の剣を振る時は折れるのを避けていつも本気出せていませんでしたからねぇ~』
「本気、というか。僕はもともと斬るほうのが得意で、そもそも砕くのは疲れるから嫌なだけ。でもまあ、これからはそんな贅沢を言っていられないしね。お前は時間制限付いてるポンコツだし、これからはこっちをどんどん使っていこうかな」
『むむぅっ! ポンコツとは聞き捨てなりませんねぇ~っ! 言っときますけどマスターぁ! マスターがぐーたら寝てる間にコツコツと私はレベリングしてスタミナを延ばしたんですからねぇ~っ! それもなんと二秒もっ、どやぁ! ほら、褒めて褒めてぇ~っ!』
「訂正。お前をポンコツって言ったらこの世すべてのポンコツに失礼だよな」
『あれ? 失礼なのは私の方だと思うんですけどぉ~。マスターってばまだこっちの世界の言葉の文法がよくわかってないみたいですねぇ~。しょーがないマスターだなぁ~。それにしても魔法も使わず一振りでこんなに範囲攻撃できるなんてぇ~、マスターはわりと人間を止めてますよねぇ~』
「馬鹿言うな。魔法なんて物理の枠組みを超えてるもの使ってるこっちの人間のほうがよほど人間を止めてるだろう」
むっとして剣に言い返す。
『もぉ~マスターってば謙遜しぃなんだからぁ~。このこのぅ~』
「いちいちお前はムカつくなあ」
クレイモアと弓を剣に収納させてから口笛を鳴らして馬を呼ぶ。
するとアルデバランはすぐに駆けてきてくれた。
何やら鼻息荒く、僕のほうにすり寄ってくる。
どうしたよ。
『“っべぇ~、まじッべ~ッ、そんなに強かったなんてオレ、目からうろこが落ちたッす。超リスペクトっす兄貴ィ~っ! ぜひとも兄貴の馬にならせていただきやすっ! ささっ、どうぞっ!”あ、その畜生が言ってることなんですけどねぇ~。よかったじゃないですか、マスターぁ。舎弟ができて』
ふうん。
ア号にくくりつけてあったエコバックから普通の縄を取り出す。
その一端をア号の鞍にくくりつけ、もう一端を腰から抜いた剣に巻きつけて縛る。
「よし、っと」
ぽい。
そして剣を捨ててからア号の鞍に飛び乗る。
目指すはウォーウルフたちが来た方向。
『あれ? あっれぇ~? マスター、そっちは砦とは逆方向ですよぉ~? どこに行くつもりなんですかぁ~?』
「いや、べつに。ちょっとそこまで。敵情偵察に」
手綱を持って走れの合図。
腹を軽く蹴る。
するとアルデバランは水を得た魚のように力強く駆けだした。
『って、ちょっと待ってこれはひどすぎるんじゃ……あばばばばばばっばばばばばばばばばばばぁ~っ! ひえぇ~っ!』
縄に引っ張られて地面を飛び跳ねながら付いてくる剣の叫びと、エバル山脈を背にして僕は遠方より来たる大軍の微かな気配を探っていた。
help me!
ア‐‐‐‐‐‐‐‐‐†。oO
HAHAHA!




