69話 分岐点だったけど選択肢なんてなかった
なんだかなあ。
それを眺めつつ、ため息をついた。
ヒルデから受け取ったクレイモアの柄を握ってみる。
手に吸い付くような持ちやすさだ。
重さもちょうどいい。
一回、素振りしてみる。
風を斬る音が鼓膜を揺らした。
『あっ、マスターいいものもらいましたねぇ~っ! 竜騎士用のクレイモアは高く売れますよぉ~!』
「それ前にも聞いた」
『そうでしたっけぇ~? ま、いいや。それでマスターぁっ、あの人たちも撒いたことですしぃ~。そろそろこの国からおさらばしましょうよぉ~! ここから東に行くと死海があるんですよねぇ~。そこを渡って雪の国ギレアドルエにでも行きましょうよぉ~。あそこには傭兵ギルドの本部もありますしぃ~。加担するなら、まだあっちのほうがこの国よりも望みはありますよぉ~? あ、そうそう。死海って普段は渡れないんですけど、冬の間は水が凍ってしまってその上を楽に歩けますのでぇ~。この感じだとあと一週間もすれば冬に入りそうですしねぇ~。それまで死海の近くで隠れてれば大丈夫ですよぉ~』
「まあ、それもいいかもね」
『でしょぉ~?』
「でも隠れているのはちょっと暇すぎるだろ」
『暇なことは良いことじゃないですかぁ~っ! 働いたら負け、ですよぉ~っ!』
「お前、魔王を倒したいんじゃなかったのかよ」
『ま、私はどっちでもいいんですよねぇ~。ぶっちゃけ魔王倒せっていうのは女神さまの言いつけで私の意思じゃありませんしぃ~。それも今となってはゴニョゴニョですしねぇ~。もうマスターの好きなようにしてくださいよぉ~。私はマスターをマスターに選んだ段階でぇ、もう私の仕事の九割は終わっちゃってますしぃ~?』
「ふうん。なら好きに暇つぶしさせてもらうけど、さ」
アルデバランに踏まれていた剣を取り上げて中空で振るう。
出てきた黒い靄に手を突っ込んで弓と矢を取り出した。
「お前は少し離れてなさい」
アルデバランの尻を軽く叩くと、僕の意図を理解したのかしてないのか。
少し離れた場所にある岩の陰まで駆けていった。
もう一度、気配を探る。
数は十五。
おそらくこの前のウォーウルフと同型だろう。
まるで猟犬のように走っている。
まだ視界には小さな点々としか捕えられないが、そろそろ弓の射程に入るかな。
弓を構える。
張りつめた弦に矢をあてがい、ゆっくりとそれを引き絞った。




