6話 うわドラゴンだー
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死体を次々と埋めて木の棒で簡易の十字架立ててる作業中。
その数、五百四十を超えたあたり。
「うわー!」
『どどど、どうしたんですかマスターぁ?』
「ドーラ―ゴーンーだー」
『なーんだ。ただのドラゴンですかぁ。びっくりさせないでくださいよぉ。あっ、それまだ生きてますねぇ。近づきすぎると腕食いちぎられちゃいますよぉ~?』
「うわー!」
『今度はまたなんですかぁ~? またドラゴンですかぁ~?』
ぶったまげた。
巨大な爬虫類のようでいて羽の生えた生き物、僕の記憶が正しいならファンタジックな世界によく出てくるドラゴンみたいな生き物の脇。
「この人生きてるわ」
『えっ! ええっ!? うそーん。……あっ、ほんとですねぇ。マジで生きてらっしゃるタフぅ~。でも虫の息ですけどねぇ。たぶんもうすぐ死にますよ?』
軽い言い方だがそれもしかたない。
この鎧着てるひげ面のおっさん。
身体の各部を鋭利なもので串刺しされてるみたいだけど、よく今まで生きていたなあ、この人。
でも、もう、どう見ても手遅れだった。
「だめだこりゃ。おいあんた。ごめん。手当の仕様がない。死ぬ前に何か言っとくことあったら聞いとくけど。まあ、出会ったばかりの赤の他人が言うのもなんだけどさ」
ひゅうひゅう微かに聞こえるおっさんの口元が、ゆっくり動く。
「……………………………………」
「……え? なに? 日本語で言ってくれないとわからないんですけどね」
『この剣を姫さまに、って言ってますよぉ~?』
おっさんの手が最後の力を振り絞るかのように蠢いて、脇に転がっていた剣の柄を握る。
『姫さまから授かったこの剣を再び姫さまにお返ししたい。それから、姫さまが好きだったレイカルキスを護れなかったこと、そして先に逝くことをお許しくださいと伝えてほしい、って言って……あっ、それ! 龍騎士用のクレイモアですよぉ! 売ったらめっちゃしますねぇ!』
「ふうん」
おっさんの握ってる両刃の剣は刀身と柄の長さを合わせると僕の身長くらいある。
『あとですねぇ。そこのドラゴンを手当てしてほしい、とも』
「えー、別にいいけどさあ。手を食いちぎられるのはいやだよ? そこんとこ大丈夫なの? って聞いてくれる?」
『マスター。もうその人、死んでますけどぉ?』
「マジでか」
ため息をつく。
とりあえず事切れているおっさんのまぶたを落として運ぼうとしたときである。
ドラゴンが低くうなった。
まるで僕からおっさんを護るように身体を脈打たせる。
『ドラゴンは一生を決めた龍騎士に生涯奉仕しますからねぇ~。まだその人が死んでないと思ってるんじゃないですかぁ?』
肩をすくめて僕はドラゴンと向き合う。
「やめてくれ。そういうの。こっちまで悲しくなっちゃうだろ。それに腐ってしまう前に埋めて、地に返してあげないと。見てるお前も、余計につらくなっちゃうだろう?」
ドラゴンは低く何度か唸ったまま押し黙った。