63話 MAKENのMは、あっ察し
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気がしたけど。
さっき思い出した。
見かけてない誰かさんとは美少女戦士ヒルデシアちゃんのことだった。
「あ、やあ。いい月だね」
「……………………………………………………………………………………え?」
というわけで水浴びをしていたヒルデに一言あいさつしたら彼女は呆けた声をあげる。
シュレイドの泉とやらは岩陰に隠れるように湧いていた。
その泉の中心辺りで月明かりに照らされた裸体を晒していたヒルデは、濡れた髪を両手でたくし上げていた状態で固まっている。
『うわぁ、鎧につっこまれてるときよりも素で見るとかなりおっきい乳ですねぇ~。……たれてしまえ、ぼそり』
おっと、綺麗な金色の長い髪に見とれている場合ではない。
自分の仕事をしなくちゃね。
僕は鼻歌交じりでたらいに水を汲み入れてユーリの衣服を浸した。
するとどうだ。
すぐに水が汚れてしまったではないか。
汚れた水を脇に捨てて、もう一度綺麗な水を泉からくみ取る。
その段階になってヒルデがゆっくり動き出した。
泉の水をかき分けて移動し、そこから這い出る。
そして地面に置いてあった大きい布を身体に巻きつけて、大剣を手に握る。
ゆらゆら。
ゆらゆら。
何やら黒い蒸気のようなものを身体からあげながら近づいてくる気配。
っていうか、すでに目の前に立っているヒルデ。
そんな彼女を、僕は座ってユーリの服をごしごししながら見上げる。
「ん? どうかした?」
「どうか、した……だと? ふふ、ふふふふふふ」
不気味な笑い。
って、あっぶね。
あろうことか、一生懸命、衣服に付着した汚れと格闘していた僕に対してヒルデは大剣を振り下ろしてきたのだ。
とっさに剣でガードする僕である。
『あいたぁッ! お、折れるぅ~……うっ……うう、うはぁっ、でもなにこの恐怖感ちょっといいかも~っ!』
鈍い音がして大剣と剣の鞘が激しく火花を散らせる。
「おいおいおい。待て待て。何で僕を攻撃するんだ。きみとは決着をつけといたはずだろ」
「あ˝?」
ツーオクターブほど低いヒルデの声。
これは、たぶん怒っているのだと思う。
でもいったい何を怒ってるんだ。
結構力強いヒルデの大剣の押しを自分の剣で拮抗させつつ考える。
思い当たることは何もない。
「何をそんなに怒ってるのさ」
「きさまはそれを、本気で言っているのか? ならば私はきさまに引導を渡すまでだ。大人しく斬られろ」
「だから、何をそんなに怒ってるんだよ。わからないから聞いてるんだろ」
「…………………………みた」
「は?」
「きさまはッ! 私のッ! は、はだかをッ! みたッ!」
『はうんっ! あうんっ! ひうんっ! ひゃぁ~っ!』
駄々をこねる子供のように地団太を踏みながら大剣を何度も振り下ろすヒルデの目はどういうわけか涙でぬれていた。
剣でヒルデの攻撃をすべて受け止めながら僕の思考はこんがらがるばかりだ。
わけがわからない。




