61話 魔剣をどうやってパスタマシンに挿入すのか
「そんなことより、いったいどういう魔法を使ったんだ? 人間を治癒する魔法は貴重だぜ。使い方によっては大きな武器になるから、きみの剣としては知っておきたいんだけどさ」
そう聞いてみたら、今度はユーリが僕から視線をそらせる。
「だめよ。もう使えないの。私がお母様から教わった唯一の魔法は、一度きりしか使えない魔法だから」
指で自分の唇をなぞりながら静かに応える。
そんな彼女をいぶかってじっと見ていると、首を真横に向けていたユーリはワザとらしい咳払いをした。
ごほんごほん。
「ところでイズィ。あなたは私に言ったことを覚えているかしら?」
「きみの剣になるって言ったことか?」
「違うわ。これよ」
膝の上に風呂敷みたいなものに包んである布の塊を置かれる。
ちょっと広げてみると、血の臭いの中に微かに甘い香りを残した衣服が入っていた。
見たことあるな、これ。
僕が汚してしまったユーリの服だったものたちである。
「あなたが洗うっていったから残しておいてあげたの。ずっと背負っていたから大変だったわ」
満面の笑みで言うユーリである。
「そりゃあ、わざわざ。でも僕、今は怪我人だし」
「あら。数十人は殺せるくらいに回復してきたんでしょう? だったらできるわね、我が剣イズィ」
「あのさあ。きみは剣を洗濯棒か何かだと勘違いしてない? 困るなあ。剣は敵を斬るためにあるんだぜ」
『あのう~、マスターも自分の行いを省みてくださいよぉ~。森にいたとき時、私を洗濯棒とか物干し竿とかの代わりに使ってましたよねぇ~?』
うるさい棒だ。
あとでパスタみたいにしてやるから黙ってろ。
『………………ごきゅり』
ゆっくりと唾を呑み込んだ剣に半眼くれてやっていると、ユーリが僕の顔をビシッと指差して指摘していた。
「いい? これは確認でもあるの」
「確認?」
「そうよ。あなたは私の身体も魂も好きにしていい。その代わり、あなたは私の剣になるって。そういう取引だったはずよ」
「まあ、そうだね」
「その約束が有効かを確認したいの。あなたがどんな些細な約束でもちゃんと果たす人間か見極めるために、ね?」
「約束は守る。でも、今じゃなくてもいいよねって話なんだけどなあ。あんまり動くと修復が遅れちゃうから」
「だめ。だめよ。今じゃないとだめなの」
あれ。
なんか今、悪戯してる子供みたな表情をユーリが見せたような気がしたけど。
よく見ると気のせいだったのかも。
ユーリは世界が終わるみたいな深刻そうな顔をしている。




