60話 捻くれて候
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「この子が手伝ってくれたから、とても助かったわ」
ぼうっと身体の回復に集中していた時。
いつの間にかアンミを連れたユーリが目の前にやってきていた。
アンミはユーリの身体をすっぽり覆っているローブを掴んでじっとこっちを見ている。
ユーリはそんな彼女の頭を優しくなでながら微笑んだ。
「傷の具合はどう?」
「まあ、うん。ある程度はふさがってきてはいるねえ。まだ本調子じゃないけれど、数十人ぶち殺すのなら余裕ってところまで回復はしたよ」
「そう。よかった」
『そうそう。マスターぁ? この人に感謝しといたほうがいいですよぉ~? 魔法でマスターのことを治癒したんですからぁ~』
どういうことさ。
『えっとですねぇ~。普通は人間の治癒なんて魔法は高度すぎてこの世界にはないはずなんですけどねぇ~。この人ってば超レアな治癒系統の光属性魔法を使える人間だったらしいんですよねぇ~。マスターが黒ひげ危機一髪みたいになっちゃった後、ほら。急所避けてても血が出過ぎて死にそうになっちゃってたじゃないですかぁ~。その時にですねぇ、瀕死だったマスターにこの人が代償行動付きの光属性魔法を使って傷をある程度ふさいでくれたんですよぉ~。さっきも言いましたけど普通は人間の治癒なんてできないはずなんですけどねぇ~。さすがは光属性というかなんというか。おそらくはそれがこの人にとっての“ハジメテ”だったからかろうじてデキちゃったんでしょうねぇ~』
剣の言葉の後ろの方はブツブツと呟いていただけだったのでよくわからなかった。
しかし、ユーリが助けてくれたということだけはわかる。
「どうしたの? イズィ?」
両手で顔を覆う僕にユーリは首を傾げる。
いやだって。
訪問押しかけ販売で散々自社製品を売り込んだ挙句にそれを試運転してみたらたちまちぶち壊れてしまった、そんなポンコツ商品をお客さん自らがお金を払って修理してくれたような気持ちが僕の羞恥心に鞭打ったのだ。
合わせる顔がないというか。
格好悪いというか。
無様というべきか。
でも逆に、僕らしい有り様ではある。
顔を覆った指の隙間からユーリを見据えた。
「魔法でなおしてくれたみたいで。ありがとう」
どうして知っているのか。
そんな少し驚いたふうな顔をしたユーリは、その後、まあいっかと適当に納得した。
そして僕をじっと見ながら小さくため息をつく。
「いいのよ。だってあなたは私を守ってくれたもの」
「守る? いやいやいやいや」
身体の前で右手を高速で左右にパタパタ揺らす。
「そんなつもりはない。ただ、せっかく見つけた都合の良い人間だし、死なれちゃ困るっていうだけで」
「むう」
頬をリスみたく膨らませるユーリである。
「だったら私も、せっかく見つけた都合の良い剣だから、あんなところで折れてしまったらもったいないと思っただけ」
むう。
ユーリから視線をそらせて腕を組んで唸る。
すると彼女は口に手を当ててクスクスと笑い始めた。
「ヒルデとあなた、よく似ているわねえ」
「どこが?」
「そういうところ」
どこが?
考えても答えは出ない。
まあ、いっか。
別に他人からどう思われようと関係ないのだ。




