5話 穴掘り
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件のあっちへ進んで行って三日ほどが過ぎた。
空気に微かに混じる、何かが焦げた匂い。
木々の間隔も広くなり、密林はやがて森、ついで林になってきた頃合い。
嗅覚を刺激したその匂いに何か胸騒ぎがして僕は歩を速めた。
というか、走る。
『どうしたんですかぁ~?』
「ん、いや。僕の家族、みんな交通事故で死んじゃってね。最期はガソリンに引火した炎であっちっち。またたくまにミディアムレアになっちゃった」
『それはマスター御気の毒に』
「どうもどうも」
『それがどうかしたんですかぁ~?』
「その時と同じ匂いがするんだよね。人間の焼けた、酷い匂い」
『まじっすかぁ~? うえぇ』
木の連なりが終わる。
林を抜けると平原に出た。
匂いの根源は、遠くの方にある小高い丘の向こうからのようである。
走る。
全速力だ。
ほどなくして丘の上についた。
丘の向こうは修羅場だった。
数百、下手すりゃ数千に及ぶ、人間の亡骸が丘の向こう側の平原に転がっている。
そして少し離れた場所にある小さな湖のほとりに建てられているのは中世欧州あたりにありそうな小さめの砦。
しかしながら砦を円形に囲っている丸太を組み合わせた城壁の所々は破壊されていた。
さらに城壁の内側、城下の集落があったらしきとこがトーストしすぎたパンみたいに真っ黒焦げになっている。
砦の中心にあたる一際目立っている大きめの建物は半壊してるし。
『あちゃ~、レイカルキス砦が落ちちゃてますねぇ~』
「レイカル……なに?」
『レイカルキス砦ですよぉ~。あの湖畔の砦は小さいけど結構綺麗で有名だったんですけどねぇ~』
「ふうん」
『そんなことよりもマスター! 不味いとこに出ちゃいましたよぉ~! レイカルキスって言ったら今現在、魔王軍に絶賛侵攻されてる最中のマルクト王国の砦じゃないですかぁ~! レイカルキス落ちちゃってるってことはここ、もう魔王軍の支配下ってことですよぉ~! 早く逃げましょうよぉ~!』
「なんで? 魔王倒せ倒せって言ってる割には、そのマルクト王国? っていうのに味方しろとか言わないんだな」
『今さらもう何やっても無駄ですからねぇ~。レイカルキスはマルクト王国の王都グランゲルシュテルンの北にあるんですよぉ~。そして魔王軍は南から攻めてきてるからですね、ずばり王都はもう落ちちゃってるってことですっ! つまりこの国は終わりってことですねぇ。そんな国に味方しても無駄なんですよぉ~。だからマスター早く隣国へ脱出して、まずは地盤を固めてからですね……って何をしてるんです?』
「何ってお前。いっぱい転がってる死体を供養しに。ちょっとそこまで」
だって、このままじゃ獣のエサだ。
そうなる前に埋めてあげようと思った次第である。
『あの~、マスター? いったいいくつ死骸があると思ってます? そんなことやってたら日が暮れるどころか年が暮れちゃいますよぉ~』
「気合で何とかするさ」
今までもわりとそれで何とかなったしね。




