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ある日、空から剣が降ってきた。  作者: まいなす
第一章 “白き山裾城”決戦
59/198

58話 彼の根源、憎悪の記憶、そこからすべては終わり始めた



 それは僕の五歳の誕生日を祝う楽しい家族旅行のはずだった。


 いざ、ねずみの国へ。

 そんな感じで高速道路をお父さんの操る車で走行中。

 隣に座った妹とおやつを分別しようとしていた最中の事である。


「おにいちゃん、シートベルトしなきゃだめだよ」

「ばか。後ろにつんでるにもつからおかしとらなきゃならないだろ」


 後部座席からトランクに移ってふと前方を見た時だった。


 空から自動車が降ってきた。


 つかの間の破壊音。


 次に気づいた時には横転した車内で身動きが取れなくなっていた。

 痛みよりも前に恐怖がやってくる。

 まだ頭が痛く、視界が戻ってこない。


「父さん、母さん、どこ?」


 真っ暗の中、前部座席の両親に声をかけるとすぐに返事が返ってきた。


「大丈夫よ、■■くん」

「すぐに助けがくるぞ、■■」


 けれど両親の声に安堵したのも束の間、急に戻った視力で見た地獄に僕は言葉を失った。

 上下逆さまになった車。

 その潰れた天井と後部座席の隙間から見えたもの。


 それは前部座席を覆う、紅蓮の炎。

 そこにいるはずの彼らはすでに火炙りに処せられていた。


「大丈夫よ、■■くん。心配しないで」

「すぐに助けがくるぞ。がんばれ、■■」


 地獄の業火に焼かれながらも、壊れたラジオみたく彼らは何度もその言葉を繰り返した。

 痛かったろうに。熱かったろうに。

 まるで僕を恐怖に殺させまいと、事切れる数十秒間ずっと彼らは僕を励まし続けることに費やした。


「父さん……? 母さん……?」


 すでに返事はない。


 両親が死んでしばらく放心していると、後部座席から妹の声が聴こえた。


「あ、ついよう」


 その時になって僕が後部座席の後ろのトランクに投げ出されていたことに気づく。


「あついよう」


 後部座席の背もたれと潰れた天井との隙間から小さな手が伸びてくる。



「あついよう」

「大丈夫だよ、おにいちゃんがついてる」


 僕は妹の手を握ってそう言った。


 車内がどんどん熱せられてくる。


「おにいちゃん、ぜったい、て、はな、さない、で?」


「ああ、ぜったい。はなすもんか」


 熱い。

 まるでオーブンだ。

 怯えた妹の声が、しばらくして悲鳴に変わる。


「―――――――――――――っ」


 まるで人間が上げる声でないケモノのような断末魔を響かせる妹。

 握っている彼女の手が、情け容赦ない炎で炙られているのを感じる。

 やがて妹の声も聞こえなくなった。

 それでも僕は、手を離したりはしなかった。


 はずだった。

 けれど。

 ふと気づくと、僕の手はさっきまで握っていたはずである妹の手を見失っていた――


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