56話 さんびきのこぶた日より
「ちなみにお前の体力はどれくらい残ってる?」
『あと一分くらいでしょうかねぇ~』
ぎりぎりだなあ。
『あの~マスターぁ? どうしたんですかぁ~?』
「あのさ。人間と魔族の気配って違うんだな。これだけ近づかれるまで気づけなかった」
『ああ、なるほどぉ~。で、どれくらいいるんですかぁ~?』
「数は少ない。けど早い。四足で駆けてるのが五、六匹。足音が重いから上になんか乗っけてるなあ。馬の走り方じゃない。狼みたいな走り方してる」
『あ、たぶんそれ、魔族がよく斥候に使うウォーウルフじゃないですかぁ~? 結構強いですよぉ~? 間に合うんですかねぇ~』
「うーん。全速でユーリのとこ行っても、たぶんどんぴしゃりにしかならないと思うなあ。どうすっかなあ」
『じゃあ逃げちゃいましょうよぉ~! 斥候に見つかって報告なんかされちゃったらわんさか魔族がわいてきちゃいますよぉ~? ささ、方向転換してくださいよぉ~!』
そうこうしているうちに森を抜けた。
平原でアンミを守るように抱きしめるユーリと、彼女らを守ろうとしている正規兵たちが見える。
で、砦がある湖の方向からは何かが駆けてきていた。
咆哮。
やつらは言うなればデッカイ狼に乗った槍兵。
しかし狼上の槍兵の身体は蒼黒く、ごつごつしていて、到底人間のそれではない。
あれがウォーウルフ。
合計で六匹。
『ちなみにウォーウルフは上に乗ってる方が上位種なので、そいつを倒せば下の狼も消えますよぉ~?』
ウォーウルフたちは駆けながら互いに何やら声を掛け合い、四散する。
一匹は踵を返して、来た方向へ駆けていった。
おそらく本隊への連絡係か。
残り五体はそれぞれ距離をおきながら横並びでユーリ目指して殺到していく。
弓を使うか。
でも、それには立ち止まる必要がある。
そして倒せるのは三匹くらいだし残りの二匹が間に合わない。
ユーリを取り囲む正規兵たちがウォーウルフを止めよう向かっていっていたが、ウォーウルフたちは彼らを眼中において無いようで、相手にすることなく弾き飛ばしたりジャンプで避けたりしている。
だめだ。
時間稼ぎにもならない。




