55話 フラグは破壊されるためにこそある
「いっ、今ここでかっ……!」
彼女は頬を赤くして慌てた口調で言う。
「え? すぐ終わるすぐ終わる。だいたいユーリの前でやったらだめそうだし」
「あ、当たり前だっ! ……ひゃっ」
僕の手がヒルデの頬をかすめると、何やら彼女は可愛い声をあげて目をぎゅっとつぶった。
「わ、私、は、初めてでっ、だ……だからっ、やめ……ッ!」
「いや、何でもするって言ったのそっちだし」
「くっ、……さ、さっさとやれ」
涙目上目使いで見られると楽しくなるよなあ。
「じゃあ、お構いなく」
そう言うと、再びヒルデは目を固く閉じる。
というわけで、僕はさっきから触ってみたいと思っていたヒルデのちょっとだけ尖がっている耳に手を伸ばして、指先が触れるか触れないかのところで、止めた。
「…………な、なんだ? どうした?」
『ちょっとちょっとマスターぁ! 私めちゃくちゃ期待してゴクリンコしてたんですけどぉ~っ! どうして途中でやめちゃうんですかぁ~っ! っていうかそもそもエッチなお願いで耳を触るなんて、マスターってばDTですかぁ~! いいえ今どきDTでもそんなことしませんよぉ~っ! おっぱいにいけおっぱいにぃ~!』
安堵したかのようなヒルデから離れ、もちろんほざくゴミは無視して、僕はユーリがいる方角を睨んだ。
おかしな気配がしたのだ。
川から歩いて出て、土がある場所で、地面に這いつくばって耳をつける。
「お、おい。どうしたのだ……?」
アバラでも折れていたのかお腹に手を当ててこっちに歩いてきたヒルデに手を挙げて動くなのジェスチャー。
「ああ、まずいことになったかも」
「お、おいッ!」
ヒルデは放っておいて駆け始める。




