54話 彼女はキャラ付けのために口癖みたいなのを言い始めた
「……く、殺せ」
「いやあ、殺せと言われてもなあ」
「……ならば、殺してくれ。頼む」
懇願するような顔をする美少女戦士ヒルデシアちゃんである。
そんなに涙目の上目使いで見られると、うっかり頸動脈を斬っちゃいたくなるわけだけど我慢する。
「あのさ。ユーリを守って死ぬっていうのは、自分勝手だと思うんだけど」
「私にはもう、姫さまを守る資格はない」
「誰かを守るためには資格が必要なの? 誰も守ったこともない僕が言うのもなんだけど、さ。守りたいなら守ればいいじゃないか。あ、もしかしてユーリをもう守りたくなくなったとか」
「違うッ! だが、……私は、姫さまを守る、……資格がもうないのだ」
頑固だなあ。
「じゃあさ。仮に僕がきみをここでぶち殺したとしよう。で、僕というモノから姫さまを守ろうとして死んだことで、きみは一度姫さまを見捨てた罪から救われたとしよう。で、その後は誰が姫さまを守るわけさ」
「それはお前がっ……!」
「守らないよ、僕は。っていうか守れない。そもそも何かを守るのは生来的に苦手だし。だいたい戦っててわかっただろ。僕の剣は守りには向いてない。敵の攻撃は避けるのが基本だし、防御なんてものは捨てて、攻撃だけに特化させてるし。コンセプトはやられる前にやる。それが絶対条件だ。やられた後の対処はできないもん」
「だがっ、お前は強いっ!」
「ああ、そうだね。でもきみもそこそこ強い。驚いたよ。魔法があると、見た目だけでは力量が上手く測れないんだなあ。僕が及第点をあげてもいいってくらいにきみは強い」
「及第点、だと?」
「魔王をぶち殺す愉快な仲間たちに入れるための及第点だよ。採点者は僕。きみの剣は防御に特化している。やられた後でやりかえす、そんな志向は僕にはないものだ。それにきみはユーリのためなら命をも捨てる。買い、だよ。ユーリの剣が僕なら、きみはユーリの盾になれ」
「でも……、私は……私がユーリを守っても、いいのか?」
「ヒルデ以外に誰がユーリを守るんだよ。そんなに姫さまを守って死にたいっていうんなら僕が気の向いたときにユーリと一緒にいつでもぶち殺してやる。でも今は乗り気じゃないんだ。ユーリのカリスマ性はめったにないからねえ。いいもん持ってるよ」
「私が、守っても……いいのか? 生きていても、……いいのか?」
「守りたいんだろ。だったら守れよ。がむしゃらに守れ。こうしよう。きみがユーリを守ってるうちは彼女を生かしておいてやる。僕がユーリをぶち殺すときは、ちゃんときみをぶち殺してから彼女をぶち殺す。つまりヒルデが死んだらユーリも死ぬ。で、最初に戻るけどさ。僕はきみをぶち殺していいわけ?」
ヒルデの首筋に刃を滑らせた。
そこに一筋の赤い線ができる。
「そうか。私が死ねば、姫さまは死んでしまうのか」
ヒルデはゆっくりと息を吐いた。
何か悪いものでも落ちたかのように、何か救われたかのように、厳しく結んでいた唇はほころび、表情が柔らかくなる。
「だったら私は死ねない。頼む。こちらから仕掛けておいてすまないが見逃してくれ。私はまだ、ユーリを守っていたいんだ」
ヒルデは泣きながら笑った。
僕は口をへの字にするのみである。
「勝手すぎるだろ」
「ああ、わかってる。だから私の命を助けてくれるなら、私は何でもする」
「何でも? じゃあエッチなことでも聞いてくれるわけだ」
途端にヒルデの顔が険しくなった。
しかし、僕から視線をそさせると、か細い声で言う。
「…………努力する」
ふむ。
じゃあ言質とったということで。
僕はヒルデの方へ手を伸ばした。




