52話 叫ばずにはいられないのだろう、きっとたぶん
ちゃんとついてきてるかな、と思って後ろの気配を探る。
ヒルデはついてきていた。
というか、迫ってきていた。
「って、はああああああああああああああっ!?」
『あの、マスター驚きすぎではありませんかぁ~? どんだけ自分が強いと思ってるんですかぁ~』
いや、だって実際に強いのだ。
自分の強さは正確に把握するというのは、剣技を磨く以前の問題だ。
今だって、剣の能力【エリュシオン】で全力疾走を維持できてる僕に追いつける生物はいないはずなのだ。
だってフルスロット中のスポーツカーに三輪車では追いつけないだろう?
それと同じ理屈だ。
だというのに、ヒルデはちゃんと追ってくる。
そればかりか、だんだん距離を詰めてくる。
後ろを振り返って確認すると、ヒルデは馬に乗って駆けていた。
いやいやいやいや。
馬に乗っているからといってそんなスピードが出せるはずはない。
「【東風の加護】……ッ!」
ヒルデは馬上で、またなんか恥ずかしい技名を叫んでいた。
『ああ、なるほどぉ~。彼女、魔法で馬を加速させてますねぇ~』
「そんなこともできるのかよ」
『風属性魔法は応用力が高いですからねぇ~』
森の中に入る。
木々がヒルデの進路を邪魔するように進んでみる。
しかし彼女の速さは落ちない。
こうなってくると、撒いた後に落とし穴とか仕掛けてハメることもできない。
仕方ないか。
森の中を進み、開けた場所に出る。
川だ。
森の中を流れる浅い川。
川幅はちょっと広いが、水の深さは足首程度しかない。
その川の真ん中まで走って水飛沫を挙げて急停止。
そして身体を反転して、抜き手を下にだらりと揺らした抜刀の構えをとる。
静かな水の流れる音が場に響く。
次の瞬間、何かが茂みを突き破ってきた。
風を纏った馬だ。
その上にはヒルデが大剣を構えている。
人馬一体となったそれは一直線にこっちに突進してくる。




