50話 魔法の属性について魔剣がゲロした
これは目の錯覚だろうか。
ヒルデの周りに風が吸い込まれていっているような感覚にさいなまれる。
というか、彼女の周りに辻風が吹き、まるで彼女がそれを操っているようなふしさえある。
「どうなってんの、あれ。おい、ツアーガイド。お前の出番だぞ」
『ええぇ~、あちら右手奥のほうに見えますのはぁ~』
「御託はいいよ」
『彼女は魔法剣士みたいですけどぉ~?』
「なるほど。魔法剣士……って、はああああああああああああああああああああっ!?」
『ちょっとちょっとぉ~。どうしたんですかマスターぁ、いきなり叫んでぇ~っ!』
頭を抱える僕である。
だめだ。
頭痛がしてきた。
「魔法ってお前。この世界ってそんなファンタジーな世界だったわけ?」
『あれっ? 言ってませんでしたっけぇ~?』
「言ってない。それに聞いてもいない」
『っていうかぁ~、だったらマスターは今、首の周りにフヨフヨしている黒い靄をなんだと思ってたんですかぁ~?』
「いや、お前が黒い毛糸でマフラー編んだのかなって」
『やっだなぁ~! 私はそんな重い女じゃありませんよぉ~っ!』
剣と会話しながらも、風を纏ってそれを自らの加速の原動力にしてものすごい勢いで距離を詰めてきたヒルデから逃げ続ける。
一度躱したと思ったら、すぐに追撃される。
それもすべて躱して躱して躱す。
『彼女は恐らく風属性の魔法剣士ですねぇ~。数だけが取り柄の人間は魔法があんまり使えないのがフツーなのに、あれだけの風属性魔法を行使できてるところを見ますとぉ~、彼女にはエルフの血でも混じってるんじゃありませんかぁ~? 人間族は普通魔法は使えないんですけどぉ~、他の種族と交わった時、その混血児が稀に親に対応する属性に適正することができる場合がありますからねぇ~。そうするとあの綺麗な顔立ちも艶のあるパッキン頭も少し尖った耳もスタイル抜群なのもうなずけますねぇ~。ぺっ』
「は? 属性? 何それ。風以外にもあるわけ?」
『ありますよぉ~? 風の他には火、水、地、闇、光の全部で六つの属性がありまぁ~す。どの属性が使えるかはたいてい種族ごとに決まっていましてぇ~、風はエルフ、火は獣人、地はドワーフ、水は魔法使い族が基本的には習得できてますねぇ~。あ、ちなみに光と闇属性はトクベツなんでしてぇ~。種族は関係ないんですけどぉ~、めったに使用できる者はいないんですよねぇ~。そ、し、てぇ~、聞きたいですかぁ~? 何を隠そう私はですねぇ~、そうっ! 闇・属・性っ! なんですよぉ~! ちょーレアですよっ、ちょーレアっ! どやぁ』
「あ、そう」
『薄っ!? 反応、薄っ!? もうっ! マスターってば私のレアさ、本当にわかってますかぁ~?』
「ウワスゲーナチョースゲー。ほら、びっくりしてあげたぞ。泣いて喜べ」
『…………もういいですよぉ~っ! ぷんすこっ!』
「怒れとは言ってないだろ……って、あれ?」
ふと追撃を躱しまくる僕に愛想が尽きたのかヒルデが立ち止まっていた。




