4話 とりにくうめえ
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こっちの世界に来てから、僕の体内時計と昼夜の数えが正しいなら、すでに一週間が過ぎようとしていた。
その間に気づいたことが一つ。
「ここの鶏肉、全般的にめっちゃうめえ」
『その台詞、何度目ですかぁ~。もう聞き飽きちゃいましたよぉ~』
「だったら耳をふさげばいいんでない?」
『あっ、それ手がなくて耳がふさげない私への差別ですよ、マスター!』
「その前に耳もないだろ」
『あっ、そうでした』
「このうっかりさんめ」
『えへへへ、ウフフフ』
あと、剣とめっちゃ打ち解けていた。
最近では刀身の簡単な手入れまでやってあげちゃうレベルである。
さらに朝の日課である素振り千本にも付き合ってもらうようになってしまった。
おそらくそれは話し相手が剣しかいないためだ。
じゃなきゃ、たき火を囲んで剣とわいわい団欒なんてしない。
ようは人恋しいのかもしれない。
ここで出会うのは、エンカウントしたら楽しい鬼ごっこする巨木のバケモノと、オオカミみたいな群れがワンセットのやつと、熊とカブトムシを足して二倍したようなやつと、着色料がたくさん入ったゼリーみたいなやつだけだし。
ホームシックならぬ、ヒューマンシックみたいな。
「そろそろここを出て町かなんかに行ってもいいかな。服も十分汚れてこの世界の匂いがこびりついてきたわけだし。甘ったるい空気にも僕の肺が慣れてきたことだし」
『あっ、魔王を倒してくれる気になりました?』
「いやぜんぜん?」
『えぇ~、マスターのけちぃ。ばか。あほ~』
「あはは折るよ?」
『マスター超かっけぇ、ひゅーぅ! ……って、なにをしてるんですかぁ~?』
剣を地面に立てて、ぱっと手を放す。
重力に負けて剣は傾いてぱたりと倒れる。
「よしあっち」
剣の柄が指した方向へ指をさす。
『よしあっちってまさかマスター。そっちに進むわけじゃありませんよねぇ~? いや、まっさかぁ~!』
「そのまさかですけど?」
『安直っ! 安直すぎますよぉ~!』
「それくらいがちょうどいいの」
だってまだこの世界において僕の既知は半径一キロくらいしかないんだもの。
まだ何かブツブツ言ってる剣を片手に歩き出した。