48話 いいよね?
「おいおいおいおい。邪魔をしないでくれよ」
ぶち殺しちゃうだろ。
そう言っても黙ってるヒルデは唇を噛みしめていた。
今にも泣いてしまいそうだ。
「やめてヒルデ」
「だめです、姫さまッ! こいつは……こいつは、だめですッ!」
「……どうして?」
「あ、それ僕も聞きたいな。今後の参考のために」
小さく手を挙げてアピールしてみたらキッと哀しいような苦しいような、そんな目で睨まれてしまう。
「きさまはっ! きさまは確かに強いっ!」
「…………えっと」
ビシっと指を差してきたヒルデの視線に対して僕は顔を手で覆ってかわす。
面と向かって言われると恥ずかしいのだ。
すると彼女は目を伏せて声のトーンを落とした。
「いや、強すぎるのだ……ッ」
「それって君らにとっては良いことなんじゃない?」
自分の指の隙間からヒルデを垣間見て言うと、彼女はまるで肩を震わせて唇を噛んだ。
「だめだっ! ……だって、だってきさまは、見限れば躊躇なく、姫さまを殺して、しまうのだろう? そんなこと、……腹の内に毒を抱えているようなものだろうっ! 得体のしれないきさまをっ、考えていることがわからないきさまをっ、姫さまに近づかせるわけにはいかない、のだッ! いや、違う……強すぎる。きさまは強すぎるのだ……ッ! もしここから先、私がきさまに勝てるであろうとしたら、今ここで、しかないのだっ! 私が姫さまを、姫さまを守るためにはっ、私が姫さまをきさまから守れるのは、今ここでしかないのだっ! だから今ここで、きさまという毒を摘むッ!」
「まあ、ヒルデの言うこともわかるよ。いつ盛られるかも知れない毒が、自分の大切な人の近くにあったら、怖いもんな。捨てたくなってしまうのは、当たり前だよ。でもね。そんなに大切な人を守りたいんなら、きみはもっと早くに剣を振るっとくべきだった。きみの大切な大切な姫さまにギレアムさんが脱げと言った辺りで彼をぶち殺しておくべきだった。もしくはきみが彼らのお相手をするべきだった。でもきみはそうはしなかった。言っておくけれど、自分が持ってるものを何も犠牲にしないで誰かを守れるなんて、世の中そんなに甘くはないよ」
「ああ、そうだ。私は……天秤にかけた。姫さまのことと、これからのこととを。その時、確かに奴等の力は必要だった。だから、……だから、姫さまの命さえ、命さえ残ればいいと……、見ていることを、選んだ。奴等とて、姫さまの命を奪えばどうなるかはわかっているから。だから、姫さまが奴等に身体を貪られるのを、私たちのために姫さまがそれをお耐えになれば、奴等はきっと、姫さまの命令に従っていたっ! そう思って、私の選択は姫さまを守ったと、思い込むことにしたッ! だがっ、お前は違う……だろう? 姫さまの命を、躊躇なく殺せる。だからっ、私はっ……わかってる。わかってるんだ。でもここで、剣を取らねば、奴等が姫さまに触れたときに黙って見ていた私は……ッ! 私は……姫さまを守ろうとして黙って見ていることを選んだ私は、……嘘になる……だから」
目に溜まった涙を払うヒルデ。
何かを決意した瞳で僕を睨んでくる。
「だから私はここで、姫さまの命を奪う可能性のあるお前を刺し違えてでも斬るッ!」
彼女は大剣をこちらに構えた。
『え~っとですねぇ~。つまり、どういうことですかぁ~? あの人、自分の過ちを肯定するために、マスターに喧嘩ふっかけてるってことですかぁ~? うわ、マスターに負けず劣らず自分勝手な人ですねぇ~』
剣が呟く。
わからないでもない。
でもなあ。
面倒くさい子だなあ。
そういう、複雑な人間は嫌いじゃないけどね。
僕は剣の切っ先を彼女に向けた。
「ありがとう」
ヒルデの口元が微かにそう動いた、ような気がする。
だめだこりゃ。
自分では気づいていないのかもしれないが、彼女の本心は端から死ぬ気だ。
それを見ていたユーリは大きくため息をついて、頭を左右に振る。
「気にしないでって言っても、ヒルデは頑固で捻くれてるから。いいわヒルデ。私を守って」
「守りますッ! 今度こそッ!」
そう自分に言い聞かせるように叫んで突っかかってくるヒルデの背後。
そこで僕にじっと目を向けていたユーリは口だけをゆっくり動かしたのである。
曰く。
『ヒルデは私が小さいころからずっと一緒に遊んで育ってきたわ。いわば私の大切な妹みたいなものよ? だから、我が剣イズィ。言ってること、わかるわね?』
わかるもなにも。
殺す気でかかってくる相手を殺さずに?
捨身で自分が死ぬまで諦めそうにない相手に?
今後のために何かしらの納得をさせて僕を認めさせなきゃならない?
しかも相手は頑固で捻くれものの美少女戦士ヒルデシアちゃん?
最悪の跳満だ。
いやいやいやいや。
剣としての初めてのお仕事にしてはちょっと重労働すぎやしないだろうか。
まあ、とりあえず頑張ってぼこぼこにすればいいよね?
†。oO(『……………………~ッ!』)
ナレーション:「その頃一方、魔剣ラダマンテュスは未だかつてないほどに狂喜していたッ! なぜなら彼女の出番がもう少し続きそうな気配がしていたからであるッ! まだ彼女のご主人様にさえ隠しているあーんな技やこーんなスキル、例えばかすり傷でも致命傷に変える空間を作り出す【Τάρταρος】などのスキルを早く魅せたいッ! 魅せてどや顔を咲かせたいッ! そんなことを思って狂喜乱舞していた彼女であったがッ! 実はッ! まだ彼女はレベル3ッ! 【エリュシオン】しか保有スキルが開放されてないということをッ! この時ッ! 彼女はまだ知らなかったのであるッ! テテーン」




