46話 ふたつのメンは偉大なり
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「いででででででえででえッ!」
かくしてギレアムさんの鼻に指を突っ込んで持ち上げていた僕は、その辺に転がっている傭兵の残骸から拝借した酒の入った皮袋を取り出した。
「僕は思うんだ。人間って誰かの立場になってみないと、その誰かの気持ちはわからないって」
「いだだだや、やめ」
「ほら、あーん」
「ごぼ、ごぼぼ……ッ!?」
ギレアムさんの口の中に酒を無理やり注ぎこむ。
口からこぼれたり、鼻から垂れたりしたが構いはしない。
半分くらい口の中に入れて、残り半分はギレアムさんの頭からかけ流した。
「さて、と。だからギレアムさん。悪いけどちょっと焼かれ死んでみてくれる?」
空になった皮袋を捨てて、懐から火種草の種子を取り出す。
この種子は潰すと火種になるとても便利なものである。
どっかのゴミとは違ってものすごく重宝している。
「ひぃいっ!」
僕が何をしようとしているのか悟ったギレアムさんの顔がゆがむ。
涙と酒でぐしゃぐしゃになった眼帯の男を見てるとぶち殺す前に無性に彼の眼帯の下が気になってきたぞ。
というわけでギレアムさんの眼帯を取ってみた。
…………。
そこには普通に、もう片方の目と同じように眼球が収まっている。
じゃあこの眼帯はなにさ。
『あっ、マスター見て見てぇ、見てくださいよぉ~! この人、眼帯つけてないと目がくりくりしててとってもチャーミングですよぉ~っ!』
「ああ、ホントだ。まるで目が小動物みたいで可愛いよな、あんた」
「それをォ言うなアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
いきなり叫び始めたギレアムさんの口に火種草の種子を潰して放りこんだ。
途端に、アルコール度数の高そうだった酒に引火してボッ。
「アッガアぁあああぁぁああぁぁっぁあぁアアアぁぁああああああああッ!」
鼻フックから解放してあげる。
すると顔面から炎を噴き上げて変な踊りを披露するギレアムさんである。
「ヲ、オオオオオオオォオオオォオオオオオオォオッォオおおおぉ……」
しばらくして両膝をついて地面に倒れこんだ彼。
水を求めているのか、シューシュー言いながら地を這う。
しだいにびくんびくんと身体を痙攣し始めた。
「…………飽きてきちゃったなあ」
地面に這いつくばってるギレアムさんの前に立ってじっと見ていた僕は彼の頭蓋をぐしゃりと踏み砕き、引導を渡してあげたのだった。
『マスターってばやっさしいっ~! 彼が苦しんでるのを見るに見かねて、およよぉ~。ま、彼をそうしたのはマスターご自身なんですけどねぇ~』
そうだっけ?
『あっ、ぴこーんぴこーんぴこーんぴこーん』
「なんだよ。もう三分たったの?」
意外と早いんだな。
ウルトラメンとカップラーメンはやっぱり偉大だと再確認する。
『それでどうしますぅ~? まだ十二分くらい私の持久力が残ってますけどぉ~。どやぁ』
「どうもこうも、斬る人間がいなくなっちゃったわけだし……。や、でもまだお前を抜いておこうかな。せっかくだし。お前がナヨナヨにヘバる限界まで続けようか」
『ええぇ~、疲れるのヤダぁ…………ちっ』
「あれ? お前、いま舌打ちした?」
『ひゅ~、ひゅ~ひゅひゅ~。あれ? マスター、いま何か言いましたぁ~?』
まあ、いいや。
あとで剣をしゃぶしゃぶすることは決まってるんだし。
踵を返してユーリの方へ歩いていく。
すると彼女の周りを囲って守っていた正規兵たちが剣先をこちらに向けた。
まるでこれから鬼にでも挑む村人たちだ。
彼らの顔はどういうわけか皆、恐怖で青ざめて歪んでいた。
けれどもその中の三人、アンミとヒルデ、そしてユーリだけが僕の目を直視している。
彼女たちはそれぞれ、まったく別々の感情を瞳に宿していた。
というわけで、正規兵たちの間をさっさと抜けてユーリの前に立つ。
一瞬でユーリとの距離をつめた僕に、正規兵たちは身動きすら取れないでいる。
っていうか、彼らは未だに僕の残像に目を向けていた。
再びアンミとヒルデ、そしてユーリだけが僕を見ている状況に相成る。
†。oO(『ほれほれ、われ魔剣ぞwわれ魔剣ぞwwなんじら頭が高いぞwwwどやぁ』)




