42話 魔剣は暇すぎて長文実況に走った
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『マスターの戦い方の神髄は、なんといっても緩急をつけた足運びにあると思うんですよねぇ~。相手の攻撃を飄々と避け、かと思えば急に本気出して迅雷の如く地を這うように移動し、次の瞬間には相手の背後をとっているぅ~。マスターってばゼロからトップスピードへ持っていくタイムラグがゼロなんですよねぇ~。その速さの落差が、相手から見たマスターの相対的感覚的スピードをアゲポヨしてるんじゃないですかねぇ~。あとマスターってば相手の目の動きを見て、相手の死角から攻撃できるようにフェイントかけながら動いてるじゃないですかぁ~。いやらしいですよねぇ~。相手からしてみればマスターが消えた次の瞬間、自分がお陀仏って状況なんじゃないですかぁ~? あ、でもマスターの肉体って超人や仙人ってことではないんですよねぇ~。いわば人間の枠を超えない達人の類、みたいなぁ~。人間が持ってる潜在能力をフルに引き出せるからここまで戦えてるんですねぇ~』
「何だよ、お前。急に説明口調になって。暇なの?」
『ぶっちゃけ暇でぇ~すっ! マスターってば私を抜かずにこれだけ戦えちゃうんだもん。いったいどういう鍛え方をしたらこんな壊れ方するのか私、気になりますよぉ~?』
「僕の師匠に十二年くらい師事してれば誰だってこうなる」
『マスターの師匠ですかぁ~。どんな鬼畜生なのか一回、会ってみたいですねぇ~』
「あ、それ無理」
『なんでですかぁ~』
「だって僕が殺しちゃったから」
『あ、なるほどぉ~。それはそれは、ご愁傷さまでぇ~すっ!』
あれから数分もしないうちのことである。
六十人を斬ったあたりで、傭兵たちの単調だった動きに変化が出てきた。
接近戦では敵わないと断じたのか、一定の距離をおいて攻撃を仕掛けてきたのだ。
「弓を引けぇっ! 近寄らせるなぁっ!」
それぞれ集団ごとに三列横隊を組んで僕にじゃんじゃん矢を飛ばしてくる。
それをギレアムさんの剣で弾き落として接近しようとするも、すぐさま後退されてしまう。
「埒があかない、なう」
矢をカキンカキンしながら呟く。
『どうしますぅ~? 私をぬいちゃいますかぁ~? っていうかむしろ暇すぎて錆ちゃいそうなので、マスターぁっ! はやく私をぬいちゃいなYOぉっあいたぁっ!』
口の聞き方のなってない木偶をその鞘ごと腰から抜いて地面に叩きつけてやったのだ。
『おおお、お、折れたらどーしてくれるんじゃあいたぁっ~い! やめてぇ~っ! あう、あうっ……あうんっ!』
てい。
てい。
てい。
『あんっ、あひぃ~んっ!』
「お前はまだ使わないよ。これは貴重な実戦だぜ? これからの経験値を積むために有用に使わないと。というわけで、よし。あれをいっちょ試しに使ってみようかな」
『えっ? も、もう終わり……じゃなくってっ! マスターぁ、あれって何ですかぁ~?』
「ほらあれ。僕のお手製の武器で。お前の四次元ポケットにいれてるやつ。おら、早く出せよポンコツ青狸」
『とりあえず私を未来から来た猫型ロボみたいに言うのやめてもらえませんかねぇ~っ! ぷんすこっ! 私ってあれよりもずっとスリムでスマートなフォルムなんですからねぇ~っ! ぷんすこっ! ……で、あれってどっちですかぁ~? エントの長弓のほう?』
「いや、手斧のほう」
『ああ、アリアドネの手投げ斧のほうですねぇ~! りょうかいでぇ~すっ!』
ギレアムさんの剣を地面に突き刺す。
鞘に入ったままの剣を前面の中空で振るった。
その鞘から黒い靄のようなものが出てくる。
そこに躊躇なくズボリと手を突っ込んでまさぐる。
†。oO(『…………ハッ! こ、これがいわゆるNTRされた側の気持ち……ッ!? こ、このもやもや感は……うぐ、うぐぐ、ぐ、ぐぅへへへへへ』)




