36話 魔剣が静かで平和なひととき
「おうおう。まあ、俺らにゃあどっちでも構いやせんけどねえ?」
「いいかしら。これだけは誓いなさい。私を好きにしていいから、その後は私の命令に従ってもらいます。必ずよ」
「へーいぃ。報酬がいただけるのならぁ、傭兵ほど信用できるやつぁこの世にいやせんぜえ?」
「あと、遺体から略奪したものは全て元に戻しなさい」
「へいへーい。誓いやぁす」
「いいわ。好きになさい。でもできるだけ早くして。追手が来てるから早くここを発たないと」
「そいつぁ、まあ、アンタの頑張りしだいでさあ。なんせこれから百人を相手にするんですからねえぇえ?」
ギレアムの声に傭兵たちが興奮した叫び声を上げる。
ひゅうひゅうという口笛の音まで聴こえる。
それを無表情で受け止めるユーリは気丈なふりをしていたが、その足は、ほんの微かであるが、震えていた。
おそらく彼女は必死に恐怖を隠しているのだ。
「まあ、まずは服を脱いでもらわないですとぉやることやれねえですからねえぇ。あ、でもぱっと脱ぎ捨てるのは感心しやせんなぁ? 俺らがそそりたつようにぃい一枚ずつ、ゆっくりと脱いでもらわないですとぉねえ」
無言でユーリはポンチョみたいな上着を脱いだ。
その下から肩出しの民族衣装みたいな服が現れる。
これだけで大歓声である。
彼女はゆっくりと、しかし手早く一枚ずつ衣服を脱いでいった。
しまいには下半身の局部を隠すショーツ以外の全てを脱いでいた。
けれどもここにきても控えめな膨らみを隠すことなく、胸を張っている。
私は大丈夫だよ。
隣で唇をかみしめ、強く握った手から血を滴らせているヒルデに。
そして後ろで座り込み、ユーリの裸体に背を向けて泣いている正規兵たちに。
私は大丈夫だということを示すかのように彼女は胸を張ってショーツに手をかける。
「さあてぇ、王族の生娘のそこはどうなってるのかぁ、その辺の女とかわらねえぇのか見てさしあげましょうかねぇえ?」
すべての傭兵たちの鼻の下が伸びきったその時だった。
一つの小さな影が、ギレアムさんへ突進していく。
あ、まずいなあ。
あれは間違いなく知り合いである。
っていうか、設定上僕の妹になってるアンミだった。
彼女は目に燃え盛る憎しみの業火に身を任せて、正気を失っているようだ。
その手には小さなナイフが握られていた。




