34話 ボロぞうきんになるのもむずい
「あのう、その首飾りを返してもらえないでしょうか?」
傭兵の輪の中心にいるギレアムさんに話しかける。
手を揉み合わせてゴマすりながら。
『マスターってば力ずくで奪う、とかいう格好良い取り返し方の選択肢はないんですかねぇ~』
剣の呆れ声は無視する。
何事も穏便に済ませた方がいいじゃないか。
「あぁん? なんだてめえはよお?」
ギレアムさんの片目が僕を睨んだ。
「えっと、その首飾りはわたしの母のものなんですけれど」
「は? それがどうしたってんだぁ? 今は俺のもんだろお?」
「そこを何とかできないですか?」
「できねえなあ。……ん? 待てよ? てめえは確か」
僕の頭のてっぺんから足元まで眺めてギレアムさんは何かを思い出したようで。
「昨日、ヒルデシアといたガキじゃねえか」
「いかにもそうですが」
「てめえ、いいとこに来たぁぜえ?」
なんかにやにやし始めるギレアムさんである。
そしてやけにフレンドリーに肩を叩かれた。
うわー、嫌な予感するなー。
「えっと、良いところっていうのはなんでしょう?」
「こういうこったよおッ」
お腹をグーパンされる。
「ごッ……ハッ!?」
膝をつく僕である。
そしたら別の傭兵に脇に手を入れられて無理やり立たせられた。
「ん? てめえ、よく見ると剣を持ってるじゃねえかあ? だっはっはっ! おい見ろおっ! なんだこのひ弱な剣はあっ! 女の髪さえ斬れねえんじゃねえのかあ? ええっ? しかも抜けねえとくらあっ! この剣はどうやら“被ってる”らしいなぁ?」
ギレアムさんは、僕が腰に差していた剣を取り上げると高らかにあげてそう叫ぶ。
すると、まわりの傭兵は盛大に噴き出して笑った。
『むむむっ、むかちーんっ! 私マジ激怒ですよぉ~っ!』
剣はキレるが、剣なのでどうすることもできない。
「この剣はぁ、てめえにお似合いだから返しておいてやるよお」
「あ、ありがとうございます。ところでその首飾りも返してくれるとありがたいんですけれど」
「ぁあ? てめえは今の状況理解してんのかあ? おら、おらおら」
「がっ……グッ……ゲェッ!」
んで、ギレアムさんに剣で何度も殴られるわけである。
『ま、マスターぁ? い、言っときますけど私が殴ってるわけじゃありませんからねぇ~? 私が殴ってるんじゃないんですよぉ~? だから跡で十倍返しとかは、その、やめてくださいねぇ~? いやほんと、まじで』
安心しろ。
あとで千倍にして返却してやる。
そして殴られることその数、二十回を超えたあたりでギレアムさんはようやくやめてくれる。
「あの……返して、ください」
ボロぞうきんみたく地面に横になる僕を一瞥して彼は他の傭兵たちに言った。
「遊んでやれ」
そこからさらに色んな暴力にさらされてしまう僕の身体である。
殴られたり蹴られたり。
そこはさすがに傭兵というだけはある。
どうすれば死なずに痛みを長時間与え続けられるのか熟知しているらしい。
ごぼぼ。
うっかり口の中を切ってしまう。
うめき声のバリエーションも尽きてきちゃったしなあ。
やっぱりやられるフリはこっちはやり返せないし何もすることがないから暇だなあ。
退屈で死にそうになった、そんな時だった。
「貴様らッ! 何をやっているッ!」
ヒルデの声。
「いったいこれは、何事かしら?」
そしてユーリの声も後ろに続く。
おそらく、さっき縄をほどいてあげた正規兵がチクったのだろう。
そこにはヒルデとユーリが正規兵のおっさんたちを従えてやってきていた。




