25話 傭兵の長みたいな人キタ
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美少女戦士ヒルデちゃんのあとについてって、砦の中の通路を歩く。
すると前から一人の人間が歩いてきた。
それを認めた美少女戦士ヒルデちゃんの緊張が一気に高まり、殺気を放ち始める。
歩いてきたのは眼帯をして軽装の鎧をつけた黒髪の中年男である。
一見すると細身のように見える。
しかし実質その胎内はほとんど筋肉でできていることが、歩く際に発せられる肉の擦れる微かな音でわかった。
彼の腰には両刃の長剣がのんべんだらりとぶら下がっている。
彼が僕らに気づくと、その柄を握ったり離したりしていた手をすり合わせた。
「これはこれは、ヒルデシア様じゃあありませんか。どちらへ行かれますので?」
「ギレアム……貴様、なぜここにいる?」
ギレアムと呼ばれた男はわざとらしく手を広げる。
「なぜ、とはどういうことで? 我々はともに戦う仲間じゃあ、ありませんか」
「なぜ砦の中へ入ってきたと聞いているのだッ」
……明らかに剣呑な雰囲気なので、僕は壁に張り付いてアンミを抱き寄せた。
くわばらっこい修羅場を勝手に持ってくるのはやめていただきたい。
どういう事情だか経緯だかがあったのかわからないのは、とくにである。
「なぜ砦の中に入ってきたのか、と聞かれましても。ならばこちらが聞き返すしかございませんなぁ。なぜ我々は中に入ってはいけないので? あなたがた正規軍ばかりおかしいじゃあ、ありませんかぁ?」
「白々しいぞッ。貴様ら傭兵どもを中に入れると守らなければならん者が危険に晒されるからだッ」
「危険、とはぁ、何がですかい? まさかぁ、俺たちがちょっとばかし酔ったはずみであの女どもをヤッちまったりすることを言ってるんじゃないでしょうねぇ? こちとら命懸けて守ってやってるんだ。そのくらいの駄賃はいただいて当然かと存じ上げますがねえ」
『あ~、なんかこの人やられキャラっぽいですねぇ~』
唇を噛んで必死に斬るのを耐えてるかのような美少女戦士ヒルデちゃんに代わって剣がコメントする。
まあ、そう言うなって。
あのギレアムって人。
実際結構、強いと思うぞ?
戦闘力でいうと100くらいかな。
「ま、そんなことはいいでさぁ。俺がここに来たのは我々の報酬の支払いが滞ってる件について、ユーリティシアス様に陳述しにいこうとしてたところで。レイカルキスにつけば貰えるもん貰えるという約束でしたがぁ、このザマでしょ?」
「貴様らには食料をくれてやっただろうがッ!」
「おーやおや、確かにそーでございましょうが、傭兵を雇うには食い物じゃなく金が必要なんですぜ? 食い物なんてもんはそっちが勝手に用意したもんじゃあありませんかぁ? だいたい、少なかったからこそ価値があった、もとい、飢えている連中の目の前で食らう快楽を味わえるというから手を打ったのに、あるものをもらっても仕方ねえじゃあありやしませんですかぁ?」
「この、この下衆どもが……ッ」
「これはこれは、ヒルデ様、下衆野郎とは我々にとっちゃあ『あなた』と呼ばれるのに等しい呼び方だということをご存じだったんで? 我々のことを存じ上げてもらってるなんて、いたく光栄極まりないですねぇ。おっと。ところで姫さんがどこにいらっしゃるか、ご案内願えますかねぇ」
「断るッ。仮とはいえ姫さまの寝所に貴様のような輩を入れてなるものかッ」
「へえ、じゃあ、いいですよ? 貴女から姫さんに伝えておいてくれりゃあ、ね。俺が姫さんに直に話す必要はないっとくりゃぁ。明日までには良い返事、期待してまっすよぉっとぉ」
そんなことを言いながら、ギレアムと呼ばれた男はくるりとまわって去っていく。
「あ、そうそう」
ところが彼は思い出したかのように立ち止まった。
「その角を曲がった辺りだったですかねぇ? 俺のことを止めようとした哀れな兵隊さんが四、五ばかり伸びてるからぁ、ちゃぁんとベッドに寝かしといてくださいよぉ。まっ、もう起きねえかもしれやせんがねぇ」
手をひらひらして今度こそギレアムと呼ばれた男は消えていく。
美少女戦士ヒルデちゃんは唾を吐いてから急ぎ足で彼が指差した方へ進んだ。
僕とアンミもド●クエのごとく、彼女についていく。
なるほど。
通路の角を曲がると、五人の正規兵が倒れている。
美少女戦士ヒルデちゃんはそのうちの一人に駆け寄って抱き起した。
「おい、大丈夫か? しっかりしろ。おい」
「ぼ、ぼーじゅばげ……ばげ……じゃじぇん」
「もういい、喋るな」
うわ、いたそー。
全員、顔に一撃決められて顔面が潰されていた。
†。oO(『……………………すやぁ』)




