23話 おもてなしとわろすw
「傭兵たちに誰か監視をつけて。それから、ここは傭兵たちに任せないで貴方たちの間で見張っておいてくれるかしら。傭兵たちは絶対に入れないで。あと手のあいている者は砦の中でもどこでもいい。民に毛布をかき集めて暖をとらせるのよ。疲れているのに、ごめんね。おねがい」
中略ちゃんが見るからに正規兵してそうな、剣を携えた数十人の男集団に命令を発する。
彼らも決して疲れていないわけではなさそうな顔をしていたが、その感情を表に出すことはない。
中略ちゃんに各々が『気にしていませんガハハ』『大丈夫ですガハハ』『姫さまのためにならへっちゃらですよガハハ』とか豪快に笑いながら声をかけてから、きびきびとそれぞれの役割に散っていった。
錬度が高いな。
それに比べて砦の外で酒盛り始めているらしいゴロツキみたいな顔の男たちの気配を探る。
他人は見た目で判断しちゃいけないんだけれど、僕が言うのはなんだけれど彼らの気配は相当な下衆じみていた。
うーん。
中略ちゃんが傭兵たちを警戒していたように、どうやら正規兵と傭兵との間には軋轢が生じているようだった。
「食料と水の残りは?」
小さな声で中略ちゃんが美少女戦士ヒルデちゃんに耳打ちする。
「傭兵どもを黙らせるのに、やつらに与えてしまって。もう少ししか残っておりません。どうか姫さまがお食べください」
「いいわ。残りのすべてをあの子らに。その次は赤ん坊を抱いてる彼女らに優先して」
人間、本当に恐怖している時は涙は出ない。
出るのはちょっと気の緩んだときだ。
礼拝所の中ですすり泣き始めた子供たちを、その子らの母親らしき女性がそれぞれ抱きしめている。
そんな光景に視線を向けてから、中略ちゃんは美少女戦士ヒルデちゃんと、礼拝所の番をしていた正規兵たちに笑いかけた。
「ごめんね? 貴方たちをご飯抜きにしちゃった」
舌を小さく出した中略ちゃんにそう言われた彼女と彼らは互いに肩をすくめて笑う。
『この疎外感っ! ひゅーぅっ、マスターってばここで一番浮いてますよぉ~っ?』
「うるさいよ。話す剣なんてバレたら面倒なことになるでしょ」
『あっれ~、言ってませんでしたっけぇ~? 私の声はマスターにしか聞こえないんですよぉ~? ぷぷぷ~ぅ』
「…………えっ、って、はあああああああああああああああああああっ!?」
初耳なんだけどそれ。
ということは何か?
剣と話してるところを他人から見たら、僕が一人でぶつぶつ言ってることになるのか?
ああ、そっか。
道理で剣と話していると周りの人間からの視線が熱くなるなあと感じてたんだ。
現に今も、中略ちゃんと美少女戦士ヒルデちゃん、それに礼拝所を守ってる正規兵のおっさん二人が、奇声をあげた僕をじっと見ている。
うわ、っていうか僕、この三日間くらいアンミの前でめっちゃ剣としゃべってんじゃん。
ずっと僕の背後で腰布あたりを握っていたアンミの方を振り返ると、どういうわけかふいっと視線を逸らされた。
僕は口笛を吹いて誤魔化そうとすることしばらく。
「……………………」
恥ずかしくなってきて火照ってた顔を自分の両の手で覆う。
「あのぅ」
そのままの状態で中略ちゃんに話しかける。
顔を覆ってる手の指の隙間から見ると、どっからどう見ても挙動不審な僕をこれ以上ないというくらいに美少女戦士ヒルデちゃんが警戒している。
礼拝所の番をしていた正規兵のおっさん二人なんか、腰の剣を少し引き抜いて若干、半身の構えになっていた。
「なにかしら?」
一方で、余裕のある笑みを浮かべながら中略ちゃんが僕に応対する。
ホントよかったぜ。
彼女がいなかったら話をする前に一方的にバトル展開に追い込まれて、僕は逃げるコマンドを使わざるを得なくなっていたことだろう。
「食料ならばわたしが保存食にしようとしていた兎と鳥と魚の肉が残っています。あとお酒はないんですけれど、湖の水を蒸留した水に、安らぎの効用のあるハーブを浸しておいたものが樽に」
五百人の晩御飯一食分くらいは急だったけど用意できて冷蔵室に詰め込んでいた。
ほら、砦を無断使用したり服とか拝借していた対価として。
それに何にせよ、餌付けの心は大切だしね。
†。oO(『……実をいうと私の声については意図して黙ってたんですよねぇ~。おかげで良いもの見せてもらいましたよぉ~。でゅふふっ、気づいた時のマスターの顔ったらもうwわろすわろすww。言ったら折られるから言わないけどぉ、……でも言いたいですねぇ~。やっぱだ、だめだめっ、…………しかし』)




