20話 偽名爆誕
顔をあげて中略ちゃんの目を真っ向から見つめる。
下手すれば吸い込まれそうになる彼女の瞳に目線を固定して口を開く。
「わたしの名はイズレールと申します。そしてこちらは妹のアンミ。わたしたちはこの地よりケセドのベタニアへ奉公に出ておりました。しかしながら故郷が魔族からの進撃を受けていると噂で聞きつけ、いてもたってもいられず。あちらのご主人さまにお休みをいただきまして、その、つい三日ほど前にレイカルキスへ戻ってきたしだいであります。すると、レイカルキスはすでにこの有り様で……。どうすることもできず、途方に暮れていたところでございます」
戸惑いと悲しみを声音に含ませつつよどみなく話しきった。
完璧だとしか言いようのないデマカセであるが、相手が相手だけに少し不安である。
中略ちゃんはため息を一つ、ゆっくり吐いた。
「……そうだったの。ベタニアなんて、結構遠いところよねえ。そこに知り合いが?」
「はい、わたしの叔母がそちらにいますので」
「姫さまっ、このような風貌の男をみすみす信用してはなりませんっ! おいきさまッ、そんなできすぎた話があるかッ! 魔族の斥候ではないのかッ? 本当のことを言わぬと斬るッ」
美少女戦士ヒルデちゃんが割って入ってくる。
片手を背中の大剣の柄にかけていた。
彼女の言うことはもっともである。
それに一度、彼女がどうやってそんな巨大剣を操るのか見てみたい気もするんだけどなあ。
けれどもここは大人しく『ひぃっ』と怯えて後ずさりしておく。
中略ちゃんは『まあまあ、ヒルデ』と美少女戦士ヒルデちゃんを両手で押し返した。
「疑心暗鬼になるものわかるけど。でも他人を身なりで判断するのはよくないわよ? ここは私にまかせて、ね?」
「でっ、ですがっ……」
「おねがい」
「う、うう、うぅぅ……くっ」
手を合わせて懇願する中略ちゃんにじっと見つめられて、美少女戦士ヒルデちゃんはしぶしぶといった感じで中略ちゃんの後ろに控えて大人しくなる。
中略ちゃんはこっちに目線を戻してからウインクして笑みを浮かべた。
「で、そちらはどうなの? アンミだったかしら? 貴方はさっきから黙っているようだけれど、貴方の兄、イズレールの言っていることは本当?」
ちゃんと確認取ってくるあたり抜け目ないなあ。
土下座している僕の後ろでじっと立っていた女の子に反応はない。
もちろんイズレールだかアンミだかは口からついて出た偽名だったので、もしかしたら彼女は自分が話しかけられてることさえ気づいてないのかもしれない。
っていうか、まだ僕も女の子の名前なんて知らないということを今思い出す。
ま、聞いてもいないし、僕も名乗ってもないんだけれど。
あとで自己紹介でもしとこっかな。
「アンミ? どうしたのかしら?」
応えない女の子。
膝をついている僕の服をちょっとだけつまんでいるのみ。
中略ちゃんの、感情を読みとりづらい瞳に、疑いの淡い色が入る。
†。oO(『……………………』)




