192話
『ドラゴンという種族はですねぇ~。その身体の寿命が来たときや致命的なダメージを食らったとき、今の身体を捨てて別の新しい身体に生まれ変わらせるんですよぉ~。その時に魂の保存はされてますからぁ~、ドラゴンという種族はある意味で不死といっても過言はないというわけですねぇ~。それにたちの悪いことに、そうやって生まれ変わるときに、身体のカタチの選択は、高位のドラゴンだとその個体自身の趣味、というかセンスにある程度委ねられちゃいますからねぇ~。さぁーて、鬼が出るか蛇が出るか、楽しみですねぇ~』
「ふうん」
気のない返事をくれてやるが、ちょっとタイミング的に嫌な予感がしてくる僕だ。
黒い甲冑を億劫に動かしながら、さっさとこの場を立ち去ってしまおうとしたのも責められることではない。
が、ちょっとばかり遅かった。
ドラゴンの前を抜けようとしていた僕に紅蓮の光の中からお声がかかる。
「これ、ご主人よ。どこへゆく? わしの生まれ変わったこのだいなまいつぼでぃを目に入れることを許してやるぞい。ふははっ、とくとみるがよいっ!」
ほらきた。
これだ。
悪い予感はすぐに当たるんだよなあ。
嫌々なのだけれど、無視するわけにもいかない。
僕はゆっくりと首を回して、馬鹿そうな声がするドラゴンがいた場所に目を向けた。
ほらきた。
これだ。
そこには全裸で腕組みをして仁王立ちしながら、こっちに不敵な笑みを投げている紅の長髪の――――。
『ろろろろろろろろろろろろ、ロリっ娘きたあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ~! ま、ままままま、マスターろりですよろっりぃ~たぁ~っ! しかもろりきょぬぅ~っ! きゃわゆいでゅふふふっ…………ハッ、あっ、ああああああっ、でもでも、私はロリババアなんて認めませんよぉ~っ! く、私を惑わしましたねぇ~っ! くっそぉ~っ、ぺっ、去れっ! ロリババアはとっとと消え失せろってんですよぉ~っ、ぺっ』
鎧甲冑の兜で顔を覆ってなかったら両手で顔を隠していたところだ。
でもまあ、見た目十歳前後の少女に扮した紅のドラゴンの赤い瞳を見るに、駄目だと言っても付いて来る気まんまんだ。
「わかった。おーけー。とりあえず先に砦の外で待っといてくれる? もちろん、それまでに体裁の良い服を自分で見つけて着ておいてくれると助かるんだけど」
「うむ。ご主人の最初の命令、利口なわしは了承したぞ。して、ところでものは相談なのじゃが、その糞生意気な魔剣、しばしわしに預けてくれんかの」
『ばぁ~か、ばぁ~かっ! マスターがロリババアなんかに私を渡すわけないじゃないですかぁ~! 私とマスターは熱くかたぁ~い絆で結ばれてるんですからねぇ~! ふふ~んだ。ぽっと出のロリババァなんかに負けませんよぉ~だっ! ねぇ~、マスターぁ?』
剣の質問には無視して腰の剣帯からそれを取り外す。
「……どうするんだ?」
「焼く」
「ほう」
「そして、食う!」
「ほほう!」
僕は剣を素っ裸のドラゴン少女に投げた。
それを少女は両手でキャッチする。
すると剣の黒い鞘が彼女の胸の谷間に挟まれてしまったのだった。
『って、はああああああああああああああああっ!? ちょちょちょっとぉ~、マスター? なんであっさり渡してるんですかぁ~!』
「一つ言っとくけどミディアムでな。こんなゲテモノだ。お腹は壊さないようにしなきゃね」
「ふははっ。さすがはわしのご主人。産まれ変わったばかりであるわしの口火炎でどこまでできるかわからんが。うむ、わしちょっとがんばるぞい」
「ああ、がんばれ」
口から小さな火を噴いて笑った少女はくるりと背を向ける。
『ひぇぇぇぇえ~っ! で、ででで、でもぉ~、無視されるのもまた格別ですよねぇ~っ! えへへへぇ~』
そうして、そんなゴミのような塵の台詞とともに、紅の長い髪を尻尾のように揺らしながら歩いていく少女の背中に手を振ってから、僕もその場を後にする。
まあ、旅は道連れなんとやら。
戦力になるなら、いいさ。
それに溶鉱炉の候補になったしね。
ところで、そろそろユーリの演説も終わる良い頃合いだ。
自分のお仕事をまず片付けてから後のことは考えるか。
というわけで、城の大広間へと続く扉の前までやって来た僕は、ゆっくりとそれを押し開けた。




