181話
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『――――マースーター、おーい。おーきーてーくーだーさーいーよ~ぅ。あっ、気づきましたぁ~?』
あれ?
寝ていたのか?
それとも走馬灯というやつだろうか。
まあいいや。
久しぶりに師匠の顔を克明に思い出せたからよしとしよう。
というわけで意識を取り戻した僕は空を見上げて寝転がっていた。
青い深淵の遠くに、一匹の鷲みたいな鳥が独りぼっちで漂っている。
というか、身体が動かないままである。
おい、ツアーガイドなぜだ。
『えっとですねぇ~』
「お、小童。ようやっと起きたかっ! そりゃ結構じゃのうっ! ガハハッ!」
かろうじて痺れていない眼球だけ動かして見やる。
するとハンニバル将軍が地面にどかりと腰を下ろして笑っていた。
「む、それはどうして身体が動かないかという顔じゃな? 安心せい。心の臓を刺したときに儂の剣の断片をお前の体内に残しておいたわけじゃ。そやつがちょーっとばかしお前の身体を麻痺させる雷を出しておる。ほれ小童よ、聴いたところによるとたしか【エリュシオン】じゃったか? その力で身体は修復されるようじゃが、時が制限されとるようじゃしのう。まあ、くたばるまでそのままでいてもらおうか」
ははあん。
妙に心臓のあたりがむずかゆいと思ったら異物を挿入されちゃってたのか。
どうりで、納得。
そして言わずもがなだーいピーンチである。
よくあるヒーロー物ならこんな時は相方がご都合主義なアイテムなりなんなりを持っているはずなのであるが。
そこんとこ、あんまり期待はしてないけどどうなのよ。
自分が説明しようとしたのに将軍に台詞を盗られて『むきむき~っ』とかマッチョの鳴き声みたいな声をあげてる剣に聞いてみた。
『今はむりですねぇ~。マスターの胸に入ってるタケミカヅチたんの断片を取り除けばどうにかなるんですけどねぇ~。マスターは動けないし、私だって取ってあげたいけれど手も足も口もありませんしぃ~』
ほんと使えないなあ。
『あ~っ、言っときますけどそもそもマスターが油断して攻撃受けちゃうからいけないんですからねぇ~っ! 何でもかんでも私のせいにすればいいなんて思わないでくださいねぇ~っ! ぷんすこ!』
そういえば、なんでハンニバル将軍はお前の能力を知っているわけ?
『ひゅっひゅひゅ~。え? なんか言いましたマスターぁ?』
どうせ自分の能力を自慢してひけらかしてたんだろ。
わかってるって。
『どどど、どうしてそれをっ~! 私が愛しの妹たんたちに自分のスンバらしい能力の全てをさらけ出していたという遥か昔の黒歴史をどうしてマスターが知ってるんですかぁ~っ! ……はッ、も、もしかしてマスター、私の寸胴に心奪われて、ストーカーという不埒な犯罪に手を染めてしまっていたのですかぁ~? はあ、なんて私は罪なおんななんでしょう。でゅふふふふふ』




