172話 ストーカーは犯罪なのでやめましょうね?
危なかったあ。
抜刀して将軍の攻撃を回避して距離をとった僕は、ミンチにされた自分の残像に南無南無した。
『げほっ、げっほげほっ! 私のぷりてぃーボイス機能が粉塵で壊れちゃうぅ~!』
剣が叫ぶ。
「ならしゃべるな」
『あっ、そっかぁ~! マスター、今日は頭が冴えてますねぇ~! それではお口ちゃ~っく! ふごふご』
将軍の攻撃により地面は抉り吹き飛ばされ、土煙が辺りを覆っていた。
退避した僕を横目でニヤついて見ていた彼の姿が隠れていく。
視界がものすごく悪い。
未だに衝撃波で陣幕が激しく揺れている音がうるさい。
煙たいので首に巻かれ始めた黒いマフラーで口元を隠してから将軍の気配を探る。
すると、あらびっくり。
すでに零距離まで詰められているではないか。
「がっはっは! 良いぞ良いぞっ! よくぞ避けたのっ! ならば次はどうするかぁっ!」
巻き上がる土煙を稲妻で吹き飛ばして、ハンニバル将軍は僕の目の前にぬっと出てきた。
良い笑顔だ。
もちろん雷を纏う戦斧は振り上げられている。
油断も隙もあったもんじゃない。
それにもう少し、仕合の“間”とか“余韻”とかがほしいんだけどなあ。
せっかちな男は嫌われちゃうぞ。
僕は将軍の攻撃を横に転がることで回避した。
そのまま踵を返して駆ける。
背後でものすごい破壊音が聴こえたけど振り返らずに、走る。
場所を変えよう。
もっと開けた場所のほうがやりやすい。
陣幕を切り裂いて陣中から飛びだした。
魔族の軍勢がいないほうの丘の側面を下る。
そこに広がるのは平原。
前に僕がここを通った時はそれなりに草がわりとぼうぼうして揺れていた。
しかし、今は魔族の軍勢に踏みにじられたのか赤茶けた土が露出している。
しばらく進んだところで停止して、身体を反転させる。
ハンニバル将軍はまだ追ってこない。
ふと足元に蒼い花が一輪だけ奇跡的にも踏まれずに残っていることに気づいた。
「むう……」
僕はその場所から真横に三十歩ほど横跳びした場所に身体を落ち着かせる。
そこで雷鳴が轟いた。
敵本陣があった丘の上を見やると雲一つない空からふざけたことに極太の雷が地を穿っている。
昼間なのにピカりやがって。
舌打ちする。
それからしばらくの静寂が訪れた。
嵐の前の何とやらというやつだろうか。
粉塵が漂っている丘の上で陣幕が微かに揺れる。
粉塵が漂っている丘の上で陣幕が微かに揺れた。
「がーっはっはっはっ! これ小童どこへ行きよるかぁ!」
そこから飛びだしてきたのは、八本足の黒馬に乗ったハンニバル将軍。
巨大な戦斧は槍と盾の形状にトランスフォームしている。
その黒き戦馬が一歩踏み出すことに地面が抉れて爆ぜていた。
ぐんぐん加速してこっちに近づいてきている。
というか、もう目の前だ。
蹄の裏がよく見えた。
踏みつぶされる。




