171話 ある日、空から剣が降ってきた
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攻城していたとある魔族Aは地面に鞘ごと突き刺さっている剣を眺めていた。
その剣は突然、空から降ってきたのだ。
そして彼の目の前の地面をぶち抜いたのである。
彼はその剣を眺めているうちに少し興味がわいてきた。
破壊すること以外で興味がわいたのはこれが初めてだ。
彼は剣を地面から引き抜くと手に持って見聞した。
どうみても古ぼけた細いソリのある剣である。
しかも鞘から刃が抜けやしない。
自分はなぜこれに興味を持ったのだろう。
その疑念について考えていると、何やら剣がカタカタと震えはじめた。
なんだ。
そう思った瞬間のことである。
『……ハッ!? マスターが呼んでいるっ!? もしかして私がいなくて寂しくなっちゃったんでしょうかねぇ~。マスターってばぁ、もう仕方ないですねぇ~。でゅふふふ。いま行きますよぉ~っ!』
いきなり斥力を持って飛んでいった剣に顎を砕かれて。
こうして彼は、とある魔族Aは滅んだのだった。
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さて、剣を呼んで手を挙げてから十秒くらいたってからのことである。
『呼ばれて飛び出てぽぽぽぽぉ~んっ! はぁ~いっ、おまたせしましたマスタボレホウゥァっ!』
すごい勢いで飛んで陣中に入ってきた剣を掴んでそのまま地面に叩きつけた。
「遅いっ!」
『酷いっ!』
地面に転がる剣を足で踏みにじる。
だって、そうだろう。
さっきまで良い感じで戦闘が開始される雰囲気だしてたのにさあ。
剣がくるのが遅かったせいで、僕は手を挙げっぱなし。
そしてハンニバル将軍も律儀にも『マチワビタゾ、コワッパ!』と叫んだポーズのまま止まっていてくれているのだ。
これはもう、謝って済むレベルの失態ではない。
剣を折って詫びるしか。
『ちょちょちょっちょっと待ってくださいよぉ~! そもそもマスターが私をすぐ捨てるから悪いんでしょぉ~! 私わるくないもんっ!』
唾を吐き捨てる。
「お前はすぐそうやって責任転嫁する。そんなんだから結婚できないんだ」
『むむむむむむきぃ~! それとこれとは全然関係ないじゃないですかぁ~! マスターそれセクハラっていうんですよセクハラ~っ! いくらマスターでも許しませんよぷんすこ! それに私まだぴちぴちのじゅう』
「あー、いいかの」
剣の言葉を遮ってハンニバル将軍が目を線にして小さく片手を挙げた。
若干さっきよりテンションがトーンダウンしてる感じで髭をもう片方の手で撫でている。
「夫婦漫才はそれくらいにして、早く殺しあわんか。ほれ、儂も退屈し過ぎて死にそうじゃし。小童、お前も時間はないじゃろ? ん? 違うか?」
確かに、そうだ。
砦の方の気配を探ると、すでに魔族は第五層に侵入し始めていた。
でも先の台詞の頭の漢字四文字は訂正してもらいたい。
そう言おうと口を開けようとしたら将軍に先を越される。
「がはは! なんなら、もう一度やり直すか? 仕切りなおすか? それも一興、いいじゃろうて! ほれ、小童。お前からなるぞ! がっはっはっ!」
一人で再び盛り上げてくる将軍。
調子狂うなあ。
地面に落ちていた剣を蹴り上げて引っ掴んだ。
『しくしく、もっと私に優しくしてくださいよぉ~』
そんなことをほざいた剣を無視して僕はさっきと同様のポーズをキメる。
不敵に笑うところまで再現しながら静かに言った。
「来たぞ、将ぐ――」
「待ちわびたぞ小童ぁっ!」
ぎゃー。
僕の台詞が終わらないうちに目の前まで肉薄してきて巨大戦斧を振り下ろす彼の身体は、すでに雷光を宿してバチバチと弾けていた。




